試験採用の初日――“人にしかできない仕事”
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第五話では、
ガルムがついに 試験採用の初日 を迎えます。
魔道具が当たり前になった港で、
「人が働く意味」
「人にしかできないこと」
が少しずつ見えてくる回です。
最初はうまくいかないガルムですが、
その中で見せる“強み”が、
現場の空気を変えていきます。
ぜひ、ガルムの一歩を見届けてください。
翌朝。
港に向かうガルムの足取りは、昨日とはまるで違っていた。
緊張と期待が入り混じった顔。
拳は固く握られ、尻尾は落ち着かず揺れている。
「兄ちゃん……今日で決まるんだよな」
「そうだ。でも、昨日のお前を見たら分かる。
“働きたい”って気持ちは本物だ」
リオとミナも横から声をかける。
「ガルム、がんばれよ!」
「昨日みたいに、かっこよくやっちゃえ!」
ガルムは照れくさそうに笑った。
「……ああ。やってやるよ」
***
港に着くと、昨日の作業員が手を振った。
「おう、来たか。
今日一日、よろしく頼むぞ」
ガルムは深く頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
作業員は笑いながら言った。
「そんなに固くなるな。
まずは“魔道具の癖”を覚えるところからだ」
ガルムは真剣にうなずく。
***
◆ 最初の仕事:魔道具の補助
魔道具は巨大なアームで荷物を掴み、運ぶ。
だが――動きは速いが、融通が利かない。
作業員が説明する。
「魔道具は“決められた動き”しかできねぇ。
だから、荷物の角度がズレてたり、
重心が偏ってるとエラーを起こす」
ガルムは荷物の下に潜り込み、角度を直そうとした。
だが――
「うわっ!」
荷物が少し滑り、ガルムは尻もちをついた。
作業員が慌てて駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?」
ガルムは苦笑いしながら立ち上がる。
「す、すみません……!」
(最初はうまくいかないのは当然だ。
でも、ここからだ)
俺は心の中でそう思った。
***
◆ 二つ目の仕事:仕分け
荷物には色と数字が書かれている。
種類は多く、覚えるのも大変だ。
ガルムは真剣に仕分けを始めたが――
「ガルム、それ逆だ!
青は北倉庫、赤は南倉庫だ!」
「す、すみません!」
ミスが続く。
ガルムの耳がしゅんと下がった。
(……ここで折れるなよ、ガルム)
俺は心の中で祈った。
***
◆ そして――ガルムの“強み”が発揮される
昼前。
魔道具がまたエラーを起こした。
「おい、また止まったぞ!」
「荷物の重心がズレてる!」
作業員が慌てる中、
ガルムはすぐに動いた。
「兄ちゃん、俺、行く!」
昨日の救出で身についた“感覚”が蘇る。
ガルムは荷物の下に潜り込み、
重心を見極め、力で支えながら角度を調整した。
「よし……今だ、動け!」
魔道具が再起動し、荷物を持ち上げる。
作業員が叫んだ。
「すげぇ……!
魔道具の死角を完全に補ってる!」
「ガルム、やるじゃねぇか!」
ガルムは汗だくになりながら笑った。
「へへ……これくらい、どうってことねぇよ!」
ミナが感動して尻尾を振る。
「ガルム、かっこいい……!」
リオも拳を握る。
「やっぱりガルムはすげえよ!」
***
◆ 遠くから見ていた責任者
責任者は腕を組み、静かにガルムを見ていた。
作業員が近づく。
「責任者さん、どうです?
ガルム、やれますよね?」
責任者は短く答えた。
「……まだ判断は早い。
だが――悪くない」
その言葉に、ガルムの耳がピクリと動いた。
***
◆ 一日の終わり
夕方。
ガルムは汗まみれで、でも誇らしげな顔をしていた。
「兄ちゃん……
俺、今日……ちゃんと働けたよな?」
俺はうなずいた。
「働けたよ。
ミスもしたけど、最後は“お前にしかできない仕事”をした」
ガルムは拳を握りしめた。
「……働くって、こういうことなんだな。
誰かの役に立つって……すげぇ気持ちいいんだな」
その横顔は、
昨日までのガルムとはまるで違っていた。
(明日、責任者がどう判断するか――
それがガルムの未来を決める)
若者たちの未来は、
確かに動き始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第五話では、
ガルムが“働く”という行為に向き合い、
ミスしながらも成長していく姿を描きました。
魔道具が便利になりすぎた街でも、
人にしかできない仕事は確かにある。
その事実に気づいたガルムの表情は、
昨日までとはまるで違っていました。
次の第六話では、
責任者がガルムの働きをどう判断するのか――
ついに“正式採用”の行方が決まります。
ぜひ、続きも読んでいただけると嬉しいです。




