第1話「荷物持ちは、処分される」
初投稿です!どうぞよしなにm(_ _)m
――迷宮都市。
突如として世界に現れた大穴は、希少な鉱石や魔石を内包し、巨万の富を人にもたらした。
その一方で、濃密な死を絶え間なく吐き出す場所でもあった。
そんな場所を中心に都市が形成されるまで、時間はかからなかった。
人が集まり、建物が増え、今では誰もが「迷宮都市」と呼ぶ巨大な街になっている。
今、俺は大穴の「中層」と呼ばれる場所で、集団の最後尾を歩いている。
中層は洞窟のような場所で、ところどころ魔石が顔を出している通路が入り組んだ複雑な場所だ。
......重い。
背中が。腕が。足が。
だが、それ以上に重いのは、自分がここにいる理由だった。
Bランクパーティー《銀翼》。
有名な冒険者パーティー。
その荷物持ちが、俺――カナタだ。
戦えない。速くない。判断も遅い。
だから荷物を運ぶ。ただそれだけの役割で雇われている。
「荷物持ちは楽でいいよな」
パーティーリーダーの剣士ガイアスが、苛立ちを滲ませた声で言った。
中層に差し掛かり、目ぼしいお宝も見つからない不満が、そのまま俺に向けられている。
楽?
前に出なくて済む?
……そうかもしれない。
特筆するスキルもなく、戦闘能力もない俺には前から投げつけられた言葉に、何も返せなかった。
「死ぬ確率も低いしな」
それは、荷物持ちが死ぬとき、大抵は“事故”として記録・処理されるからだ。
そういう意味での「低い」。
「ほんと、楽でいいわよねえ。戦わず、荷物を運んで歩くだけで報酬がもらえるんだから」
魔道士のエリーナも便乗する。
嘲るような声が、耳に刺さった。
「へ……へへ……すみません。役立たずで」
笑ったつもりだった。
見殺しにされないために。
自分の命を守るために。
逆上されるよりは、黙って頭を下げた方がいい。
反抗したところで、結果は目に見えている。
しばらく進んだところで、三叉路に差し掛かる。
「チッ、また分岐路かよ。偵察に行ったドモンを待つか」
銀の翼は剣士ガイアス、魔導士エリーナ、盗賊ドモンの3名で構成されるバランス型のパーティーだ。
こういったダンジョンでは盗賊のドモンが斥候の役割を担っている。
しばらく待っていると、先行偵察に出ていた盗賊のドモンが戻ってきた。
「待たせたな。すこしやべえ事になった。俺が見てきたこの左の通リ、闇の狼の群れが近づいてきてやがる」
ガイアスはため息を吐いて、ドモンに確認を取る。
「アビスウルフか、何匹いる?」
「恐らく4~5、それ以上は間違いなくいるな」
アビスウルフは危険度D。
戦闘慣れした冒険者であれば、難なく倒せる魔物ではあるが、
集団で行動し、統率された動きをする数多の冒険者を屠ってきた厄介な魔物だ。
「...厄介だな、こんな狭い通路で戦えば苦戦する」
ガイアスが迷いなく言った。
「右へ行く。……だが、このままじゃ追いつかれる可能性が高い」
続く言葉が来る。
「足止めが必要だ」
俺しかいない。
逃げられなくて、戦えなくて、切り捨てても痛くない存在。
ガイアスが近づいてくる。
「カナタ。囮になってくれ」
両肩を掴まれ、和やかな笑顔を向けられる。
嫌だ。
死にたくない。
震える拳を握りしめながら、俺は言葉を発した。
「……む、無理、です」
ようやく出せた言葉だった。
声が裏返り、言った瞬間に自分でも驚く。
「死にたく、ありません」
続いて絞り出した声に一瞬、空気が止まった。
次の瞬間、エリーナが小さく舌打ちする。
「大丈夫だ、後で合流出来たら分け前多くするから、な?」
「で、でも俺みたいな非戦闘員が囮なんて、荷物もあるし...」
中々納得しない俺に対して、ガイアスの表情が変わった。
笑顔は消え、両肩を掴む力が一気に強まる。
「ゴチャゴチャうるせえんだよ、この役立たずが。こういう時のための荷物持ちだろうが」
直後、腹に衝撃が走った。
ガイアスは両肩をホールドしたまま、膝蹴りを叩き込んできた。
蹴りだと理解する前に、息が止まる。
内臓が潰れたような激痛。
体が浮き、地面に叩きつけられた。
「うっ……!」
足に力が入らない。
視界が揺れる。
「記録は事故でいいだろ、行くぞ」
ガイアスは、もう別のルートへ歩き出していた。
「恨まないでね、荷物持ちくん。来世で会おうねえ〜」
エリーナは振り返りながら手を振っている。
「恨むなら自分の力不足を恨むんだな、役立たず」
最後に盗賊のドモンが倒れた俺を横切りなから吐き捨てる。
背後から、音がする。
爪が石を叩く音。
鼻を鳴らす音。
来る。
早い。
逃げなきゃいけないのに、動けない。
蹴られた腹が痛くて、息ができない。
「たす……け……しにた……く……」
声にならなかった。
黒い影が、覆いかぶさる。
牙が、腕に。肩に。首に。
骨が噛み砕かれる感触。
肉が引き裂かれる音。
痛みと恐怖。
取り残された絶望と怒り。
思考が、ぐちゃぐちゃになる。
嫌だ。
死にたくない。
なんで俺だけ、こんな目に遭わなきゃいけないんだ。
こんな終わり、納得できない。
(やめておけば……)
何を?
何をやめればよかった?
後悔の答えが出る前に、意識が途切れた。
――暗転。
終わりだ。
確かに、そう思った。
なのに。
なぜか、終わらない気がした。
その意味がわからないまま、
俺は確かに――死んだ。




