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怪異怪域 怪異探偵の助手、白瀬真の怪異譚  作者: 山外大河
一章 縁喰い

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3 怪異の専門家

「ああ、これは私の名刺だ」


「あ、どうも」


 返答しながら、差し出された名刺を受け取る。

 黒幻探偵事務所。名刺にはそう記されている。


「探偵、なんですか。じゃあ推理とか……いやでもさっき怪異の専門家って」


「探偵業が推理を行うというのはフィクションの世界の話だ。実際の探偵業というのは情報収集と報告が主な業務でね。で、そういう業務ですらもあくまで表向き。メインは怪異絡みの一件の調査と報告。そして解決だ。こうして考えると裏側を向いているのは解決の部分だけだね」


 とにかく、と霞は言う。


「私はキミみたいな被害者の相談を受け、時には飛び込んで解決する。そんな事をしている私が迷惑だなんて思う訳が無いという訳だ。寧ろ飯の種が転がり込んできたと歓喜するべきだろ」


「……あ」


 自分が本当に縁喰いという怪異に憑かれているとして。

 黒幻霞という専門家がそんな自分を救ってくれたとして。

 彼女の行為は本人が言った通り業務の一環という事になる訳で。


「すみません……此処までの話が全て本当だったとして、俺が本当に救って貰ったんだとしても……すぐに謝礼金を払ったりなんかは……分割払いとかできます?」


 往復の交通費だけで相当額を使っている訳で、謝礼金どころか今月の生活費を少し考えていかなければならない状況が今の現状だ。

 故に情けないが、そんな事を聞かざるを得ない。

 勿論最悪の場合、必要な金銭は搔き集めるが。


 だけど霞は言う。


「お金はいい。これで謝礼金を求めるのは言わば善意の押し付けだ。例えばキミが医者だとして、プライベートで怪我をしている人に応急処置を行ったとしよう。その時キミは診察料や治療費を求めたりするかい?」


「……いえ。する訳が無い」


「だったらそれが答えだよ。素の感性が近いようで助かるね」


「でもせめて此処の代金位払わせてください。多分さっきの例でも、自分が助けてもらった側だったら礼位はするだろうし」


「別に良いのに……」


 と、クールな雰囲気のままそう言う霞だが……一瞬ガッツポーズをやりかけたのを真は見逃さなかった。

 そして加えて。


「あの、そういう事なら……パフェも頼んで良いだろうか」


「どうぞ」


 色々分からない事は一杯あるが、なんとなくこの人が面白い人だというのは理解できた。

 そして店員を呼びパフェ。しかもデラックスを頼んだ霞に、少し気になった事を問いかける。


「でも無償で助けようとしてくれたんだったら、飯の種云々というのは……」


 良い事を言っている風に聞こえるが、直前の言葉と大きく矛盾している様に思えるが。


「ああ、あれはね。もしかしたらこれ怪異じゃね? って一件に遭遇した人を見たら、ぜひ私の事を紹介してくれよって事さ。もしくはキミ自身が再び何かに遭遇した時も是非ご用命を」


「なるほど、そうやって仕事を取ってくるんですね、怪異の専門家って」


 今の自分の認知をどこまで信用して良いのかは分からないが、今日まで自身がその存在を認知していなかったように、世間一般的には怪異なんてものは現実の物として認知されていない。

 だとすれば彼女の名刺がそうだったように、表だって怪異の専門家とは謳えない訳で。

 だからきっとこういう風に、怪異絡みのトラブルが自分の所に集まってくるようにパイプを広げているのだろう。


「そんな訳だ。だからよろしく頼むよ、えっと……」


「ああ、白瀬です。白瀬真」


「よし覚えた。じゃあ期待してるよ白瀬君。どんどん仕事を回してくれたまえ」


 そう言ってグーサインを向けてくる霞。


「ええ……でもそれだとまるでどんどんトラブルに巻き込まれろって言われてるみたいですね」


 それに対し霞は考え込むように黙り込み、やがて目元を右手で追おう。


「……失言だねぇ。うん、これは失言だ……ごめん」


「あ、いや、大丈夫ですよ大丈夫」


「パフェが届いたら……中に入っているイチゴを一欠片食べるかい?」


「い、いらないです」


 普通に謝罪もいらないのだけれど、それはそれとして誠意で出てくるのがそれかよと苦笑いを浮かべそうになり、そして確信した。


(この人クール系な美人とかじゃなくて、クール風面白美人だな。間違いない)


 と、そこでデラックスパフェを店員が運んで来る。


「おお、来たねぇ良い感じのパフェが……しかしえらく早いね」


「ははは、お恥ずかしい事に丁度オーダーミスで作ってしまいまして。最近こういう事が良くあるんですよね……」


「ほう……まあ私にとっては幸運だったよ。食べたいタイミングで食べられる訳だから」


「ははは、笑い事じゃないけど助かります……それではごゆっくり」


 そんなやり取りを見ていて思う。


(……もしかしてこういうのも怪異とやらの仕業だったりするんだろうか)


 だけど特に霞から追求もなく、そのままパフェに目を輝かせているところをみる限り杞憂なのかもしれない。きっとそうだ。


「良いねぇ、程よくデラックス……もうあげないからね。これはもう私だけのデラックスだ」


「いりませんって。しかしさっきの謝罪の流れからよくそのテンションに持っていきましたね」


「す、少し食べるかい? お、思ったよりデラックスだったからイチゴ二欠片までなら……ッ!」


「いやだからいりませんって」


(この人おもしれ……ッ!)


 と、内心そんな事を考えながらアイスコーヒーを一口。

 それから霞に言う。


「まあとにかく俺がそれっぽいのに関わったら連絡しますよ」


「冗談抜きで無理に関われと言わないからね」


「ええ」


 もっとも今日まで怪異という存在に無縁の生活を送って来た自分が、今後の人生でそういう事に関わる機会が訪れるかどうかは疑問だが。

 そして霞はパフェを頬張り、ミステリアスさの欠片もない笑みを浮かべた後、真に言う。 


「で、私達は今こうして解決した後の事を話していた訳だけれども、一応言っておくけどキミの一件はまだ解決していないよ」


 巡りめぐって、自分の話に戻ってきた。


「……ええ、分かっています。まだ解決しきってない」


 今自分は此処まで自分を導いた感情や知識が外付けの異物だと認識している。

 だがそれを知覚できているという事は、それ即ち今だに自分の中の価値観の基準がそうした外付けの異物に置き換わっているという事を。

 縁喰いという怪異の影響下にあるという事を確信させる。


 霞に声を掛けた瞬間と比較すれば状況は好転しているだろうが、今だ解決には至っていない。


(……いや、ちょっと待てよ)


 一つ根本的な疑問があった。

 これはこれからこの一件と最後まで向き合っていく為に、そして純粋な知的好奇心を満たす為にもはっきりとさせておきたい事だ。


「ていうか黒幻さんは、どうやって俺をある程度まともな状態まで引き戻せたんですか」


 最初は間違いなくまともな会話が出来ていなかったが、この人と話していると徐々にまともな感性を取り戻していけた気がしていた。

 正確にはまともではない事を知覚し、うまくコントロールできるようになった気がした。


 一体何がどうなって今の状態にまで至れたのか。


 会話をした以外だと、結局有耶無耶になっているが恐らく本当に行ったであろう、こちらの醜い発言を他の人間の耳に届かせないようにする為の結界を張った事やコーヒーとパフェを堪能している様子しか見ていないので全く想像が付かない。

 それこそ結界を張った様に、自分を此処に留めている間に不思議な力でうまくやってくれたのだろうか。


 そしてその問いに、行儀悪くスプーンでこちらを差した霞は答える。


「キミと真正面から会話し、キミの言動はおかしいと指摘した。簡単なカウンセリング。ただそれだけだよ」


「……へ?」


「何か不思議な力で解決しようとしていたと思ったかい?」


「まさにそんな感じだと……違うんですか? 本当にそれだけで今の状態にまで……」


「ああ、それだけさ。だけどそれだけの事が困難なんだよ」


 こちらを指していたスプーンを戻し、再びパフェを頬張った霞は続ける。


「縁喰いはね、奇言奇行により最終的に縁を切らせる怪異だ。憑かれた被害者はその言動の歪さに気付かないし顧みる事も無い。そして普通の人はそんな頭のおかしい行動を取る相手を諭そうとはしない。悠長に会話したりなんてしないんだ」


「でも……黒幻さんは違った」


「そうだね。キミが偶然話しかけた相手は、キミの言動が怪異によるものだと判断できる人間だった。だからこうして話を聞くことが出来たし……それはおかしいんだと、騒ぎになる前に諭す事が出来た。そして諭されれば、現実が見え始めれば、まともな人間ならば己を取り戻せる。何せ縁喰いに人格を乗っ取る程の力はない。あくまで暗示のような物を掛けるだけだからね。うん、条件さえ揃えば対処は簡単なんだ」


「……成程」


 理屈を理解し、そしてそれがどれだけ困難な物かという事が深く染みわたる。

 もし自分が霞以外の誰かに話し掛けていれば、自分は自分を顧みないまま頭のおかしい人間であり続けただろう。


 それが例え仲の良い友人でも。

 今回のケースから外れるが故に霞は例を挙げなかったが、もしある程度話を聞いてくれるような知人相手に同じことをしていたとしても、最悪な事になっていた事は理解できる。


 突然友人がおかしくなれば止めるだろう。

 話を聞いてくれるかもしれないだろう。

 だが怪異の存在を知らなければ、やはりその行動はその人の内から湧いて出て来た言葉として扱われる。

 絶縁とまでは行かなくとも、これまで通り縁がある状態ではなくなるかもしれない。


(いや、そんなに甘くも無いか)


 知人相手の方がきっと直接縁が繋がっている分、切る際も直接的な行動になるだろうから。

 そして近しい相手であればある程、簡単には切れないだろうから。

 その場合自分はどんな行動を取っていたのだろうか。

 本当に、本当にろくでもない事になっていたのかもしれない。


 とにかく。

 とにかく縁喰いを対処するには、歪な言動に対し背景を察せられる怪異の専門家か、ナチュラルにこういう事ができる他人の存在が必要だった訳だ。

 どちらの線もか細い糸。

 だからこそ。


「改めて……あの時あの場所に居たのが、黒幻さんで良かった」


 そんな奇跡に対し本当に心からそう口にできた。


「どういたしましてだ」


 そう言って彼女は再び、どこか満足げにパフェを頬張ったのだった。

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