7 電子の海に潜む怪異
「……なるほど」
記憶が抜け落ちている間の話を最小限の相槌で聞き終えた霞は静かに呟く。
「話を途中で途切れさせてしまった訳だけど、私がおかしくなったような返信を他の被害者達も見ていた。そういう事になるのかな?」
「ええ。そして意識を失う事になった要因の一つが今明らかになった」
霧崎さんは頃合いとみてか、スリープモードにしたスマホを霞に手渡しながら言う。
「被害者は今の霞みたいに、自分本来の意思に反する形であのURLに触れたんだ。見ただけでそこまでの影響を与える怪異なら、その先に進めばその位の事にはなるでしょ」
「そしてその位の事が出来る程、厄介な相手という事だよ。纏めると今回の被害者は魂を抜かれたように意識を失っている。そして皆金に困っていて、こういう返信が送られてくるような行動をした者。それから強制的に魂を五万円で売却する判を押さされた訳だ」
「そういう事になると思う。実際その現場を見たのは会わせて二人だけだけど、周りに誰も居なかっただけで同じ状況だったんでしょう」
「……被害者の知人は、そういう返信が来ているのを目撃していたんですよね。止めなかったんでしょうか」
「ただ画面に触れるだけの行動だから。止める間もなくって事だったんでしょ。実際私達は同じように画面を注視していたから異変にいち早く気付き、事前に止める事ができた」
「……此処からは霞さんがおかしくなって話途切れてたと思うんですけど、そのURLをタップした後、被害者の人はどうなったんですか?」
「急に用事を思い出したと言って別れ……その後、倒れている所を発見されたという感じね」
「その場ですぐにそれ以上の何かがあった訳じゃ無いんだね」
「被害者が倒れていたのは自宅とかではない。人気の無い裏路地から昔闇金業者が入っていた事務所の空きテナントまで。どことなくアングラ感が漂う場所で発見されているわ」
「となればそこに移動している訳か……つまりタップしただけじゃ魂は取れないというわけだ」
「あの霞さん」
口元に手を当てて悩む素振りをする霞に真は問いかける。
「これ結局なんていう怪異なんですか?」
「……分からない」
「……え?」
「少なくとも私の知識には無い。メジャー所はだいぶ抑えているつもりだから相当マイナーか……それとも新種の怪異か」
「新種?」
「首を傾げるような事じゃないだろう。いつ新しい怪異が生まれてきてもおかしくないさ。逆に考えてみるといい。SNSにトラップを張るコンピューターウイルスみたいな怪異が戦前に存在している訳が無いだろう。時代と共に廃れる物もあれば生まれる物もある。それは怪異も変わらないさ」
「呪いのビデオなんてのも最早絶滅危惧種だからね」
「ああ、確かに。ビデオテープ自体現物見た事あるの一回か二回だけですし」
「まあそういう訳で、新種って事も普通にあり得る訳さ」
「という事は対処法なんかも分からないって事ですか」
「当然、手探りになるね……これは骨が折れそうだ」
霞が面倒くさそうにそう言いながらも、やる気満々という風に拳を鳴らす……やる気だ。
当然の事ながら、分からない事は引く理由にはならない。
未知の存在に挑み見識を積み重ねる事もまた、怪異の専門家の仕事だろうから。




