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第82話 物置での発見

掃除中、美久は物置で興味深いものを見つけた。


古い物置。


埃っぽくて、薄暗い。


でも、たくさんの思い出が詰まっている。


段ボール箱が、山積みになっている。


「これは?」


美久が尋ねると、黒猫が説明した。


「人間だった頃の、みんなの持ち物」


「見てもいい?」


「ああ、構わない」


美久は、一つの箱を開けた。


中には、写真アルバムが入っていた。


古いアルバム。


表紙には、手書きで名前が。


でも、文字がかすれて読めない。


ページをめくると、たくさんの写真。


家族写真。


笑顔の両親と、小さな子供。


幸せそうな一枚。


卒業式。


学生服を着た若者。


誇らしげな表情。


結婚式。


白無垢の花嫁と、紋付き袴の花婿。


人生の門出。


旅行の思い出。


海、山、温泉...


楽しそうな写真ばかり。


「みんな、普通の人間だったんだ...」


美久の呟きに、黒猫が答えた。


「当たり前だ」


「誰もが、普通の人生を送っていた」


「誰もが、何かを抱えてここに来た」


別の箱を開ける。


仕事の道具が入っていた。


名刺入れ。


手帳。


ボールペン。


判子。


サラリーマンの必需品。


「これは、営業マンだった奴の」


「今は?」


「あそこで昼寝してる」


黒猫が窓の外を示す。


日だまりで、白黒の猫が気持ちよさそうに寝ている。


お腹を出して、完全にリラックス。


「ストレスフリーだな」


「うん」


また別の箱。


今度は、女性物の化粧品。


口紅、ファンデーション、アイシャドウ...


高級ブランドのものもある。


「おしゃれな人だったんだね」


「ああ。美容部員だった」


「今は?」


「三毛猫のミケ。さっき台所にいた」


美久は、一枚の写真で手を止めた。


若い女性が、猫を抱いている写真。


とても幸せそうな笑顔。


猫も、リラックスしている。


「これ...」


「ああ、それは俺だ」


黒猫が、照れくさそうに言った。


「人間だった頃。猫が大好きでね」


「じゃあ、今は...」


「皮肉なもんだ。好きだったものに、なってしまった」


でも、後悔はないと黒猫は言った。


声に、確信がある。


「むしろ、これが運命だったのかも」


「猫を愛しすぎて、猫になった」


「悪くない」


美久は、写真を見つめた。


幸せそうな、人間の頃の黒猫。


そして、今の黒猫を見る。


確かに、今も幸せそうだ。


形は変わったけど、本質は変わっていない。

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