第81話 掃除の時間
朝食後、みんなで掃除を始めた。
「人間がいるからって、サボれないよ〜」
少女の号令で、全員が動き出す。
みんな、各自の持ち場へ。
箒を持つ猫。
雑巾がけをする猫。
窓を拭く猫。
布団を干す猫。
でも、やっぱり動きがぎこちない。
箒を前足で持つのは難しい。
肉球があるから、滑りやすい。
バランスを崩して、ひっくり返る猫続出。
「あはは、大丈夫?」
美久が心配すると、猫たちは恥ずかしそうに起き上がった。
耳を後ろに倒して、照れ臭そうに。
「人間の道具は難しい」
「前足じゃ、握りにくい」
「でも、頑張る!」
美久も一緒に掃除を始めた。
「私がやるよ」
「ダメ!自分でやる!」
猫たちは、意地になって道具を握り直す。
プライドがあるのだ。
人間だった頃にできたことが、できなくなるのは悔しい。
すると、不思議なことが起きた。
美久の周りで、猫たちの動きがスムーズになっていく。
まるで、昔を思い出したかのように。
体が、動きを覚えているかのように。
「あれ?できる!」
「箒の持ち方、思い出した!」
「体が覚えてる!」
美久の存在が、何かを呼び覚ましているようだった。
人間だった頃の記憶。
感覚。
動き。
でも、それは苦痛じゃない。
むしろ、懐かしい感覚。
「美久さん、不思議」
少女が、興味深そうに観察していた。
「あなたがいると、みんなが...」
「みんなが?」
「生き生きしてる」
「人間の時の良い部分を思い出してる」
確かに、猫たちの表情が明るい。
昨日の警戒はどこへやら。
今は、楽しそうに掃除をしている。
人間の時の動きと、猫の動きを組み合わせて。
器用に、楽しそうに。