58 掃除屋の話35
まず、彼の体につけられていた赤い色をアルコールで綺麗にした。掃除屋に引き渡すには、死体に偽装する必要があったのだろう。弟の体中、念入りに塗りつけられていた。
次に先輩と二人で彼女の体を抱えた。
足は裸足で、左足の小指に包帯が巻かれていた。
袋に入れ、台車でバンに運び、保冷装置に収めた。その間中、弟は黙っていた。
部屋の清掃が終わると、
「指示された場所まで連れていく」と先輩は弟に告げ、車に乗せた。
町を抜けると田園地帯に入り、やがて海岸線の長い道を走り続けた。
車内の誰もが無言で、私は窓の向こうの海を見つめていた。
しばらく走ったあと、海岸線の途中にある展望スペースに駐車した。
10分後に、別のバンがやって来て、こちらの車の横に止まった。
先輩は、窓を開けて、もう一台の運転手に軽く頭を下げた。それから、
「あっちの車に移ってくれ」と弟に指示した。
彼は不安そうな顔をして、私を見た。別のバンの男は、同業者のように見えた。信頼できるかどうかはわからない。だが私にはどうすることもできない。従うしかない。
「安心しろ」と先輩は弟に声をかけた。
「親分と、うちの管理者の約束で、間違いは起こらない」
弟は、意を決して車から降りた。
別れ際に、私に封筒を渡した。
「姉さんから、あなたへの手紙です」
私は、無言のまま受け取った。どう反応していいかわからなかったのだ。
「さようなら」と彼が言って、車が去っていくまで、何も言えなかった。
バンが走り去るのを確認すると、
「さぁ、残った仕事を終わらせるか」と先輩は私に言った。




