57 掃除屋の話34
老人は、自分たちが誤って彼を処理してしまう可能性を考えなかったのだろうか。
私は疑問に思ったが、なぜだが私が見間違えることはないと確信していたようだった。
そこまで彼の話を聞いたところで、床に横たわる先輩に歩み寄り、
「ところで、気絶したふりがうまいですね」と話しかけた。
白目をむいたままの顔が、一度目を閉じた。すぐにいつもの不機嫌そうな表情に戻ると、
「なんだ、気づいていたのか」と言いながら立ち上がった。
双子の弟は驚いて、慌てて私の背中に隠れた。
先輩は床が硬くて体が痺れたのか、しばらくの間は、こちらを無視するように、腰のあたりをさすっていた。それから、「俺が薬を無害なものにすり替えておいたんだ」と、先輩は平然としていった。
「それにしても、なんで俺を気絶させる必要があったんだ」
「見てのとおりですよ」と私の後ろに隠れる彼を指さした。
先輩は頭を掻きながら、「まぁ俺は親しみやすくはないからな」とつぶやいた。
私は、今はっきりさせておいた方がいいと思い、
「先輩は、いつから、老人と繋がっていたのですか」と私は先輩に尋ねた。
「どうして、そう思う?」
「私の、血を花と見間違えることとか、いろいろなことを知らないと、今回の仕事は頼まないと思います」
まぁ、そうだよなぁと先輩は呟いた。指摘に驚いた様子はなかった。
それから、「俺は、親分に大きな借りがある」と先輩は言い、
「同じくらい、お前の親父さんにもだ」と続けた。
「親分からの依頼は、遺体の埋葬」と言ったあと、私の背中の後ろの彼をじっとみつめ、
「あと、そいつを安全な場所に連れていくことだ」と告げた。
「それと部屋の掃除だ」
まだ、夜明けまでには時間がある。




