56 彼の話4
姉は、母さんと祖父のどちらにも情報を流すことで、全てを終わらせようとした。
母さんにとって、僕を部屋から出すためには姉の手助けが必要だった。
祖父にとって、母さんと再婚相手の隠れた場所を探すには姉の手助けが必要だった。
姉さんは、二つを果たした見返りに、僕の安全を求めた。
武装した男たちは、僕を部屋から連れ出すと、まっすぐ出口に向かおうとした。
途中、見張りが立っていた部屋は、扉が半開きで、隙間から横たわる金髪の女性が見えた。
僕は、立ち止まると、護衛に体をぶつけ、彼が伸ばした手をかいくぐると、駆け出してその部屋に飛び込んだ。
椅子には、眉間を撃ち抜かれた母が座っていた。頭は右肩側に曲げられ、うつろに目を開いていた。
床には、こめかみを撃ち抜かれた金髪の女性がいた。薄く開いた目の横に涙が流れていた。
「姉さん」と駆け寄ろうとする僕を、武装した男が羽交い絞めで止めた。
どうして、どうして、殺した、と僕が叫ぶと、男は困ったような顔をして、先ほど僕の顔を確かめるために使った紙片を見せた。
そこには、僕と姉の顔が映っていた。
すこしだけ笑った姉と、おどおどした僕の顔。同じ顔でも表情で印象は違う。
それでも、知らない人からすれば二人は同じ顔だった。
「この顔の人物を保護しろと指示されました」と男は言った。
「その人物以外は排除しろと」祖父はそう命じたのだ。
暴れる僕を持て余し、電話での指示を受けた男が、何かの薬品を僕に嗅がせた。
僕はもう一度意識を失った。
どうせなら、僕も、一緒に殺してほしかった。
同じころに祖父も息を引き取った。
彼が残した最後の指示は、僕と姉さんが入った袋を、掃除屋の人に処理させることだった。




