表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掃除屋の恋  作者: takerou73
54/63

54 彼の話2

扉の向こうに母さんがいる。

僕は体の震えを感じ、懸命に押さえようと深呼吸をした。

カメラに視線を向け「開けてくれない?」と母さんは優しい声で話しかけてくる。

もし、応じて部屋を出ればどうなるのか。おそらく僕を人質にして、祖父に対して何かの要求をするつもりだろう。祖父が応じなければ、僕の体を切り刻むかもしれない。絶対に外に出てはだめだ。

避難室の解除キーは、僕の指紋で認証するよう設定してあって外部からは外せない。

とにかく時間を稼げば、祖父が助けてくれるはずだ。


僕の震える手に、姉さんが、優しく包みこむように手を添えた。

彼女は震えていなかった。僕は、自分の怯えを自覚して、少しだけ恥ずかしくなった。

姉さんは僕に優しく笑いかけた。今日初めて見た顔なのに、それでも、間違いなく姉さんだった。


彼女の手の力が少しづつ強くなった。僕は痛みを感じ、思わず振りほどこうとしたが、そうさせないくらい姉さんは強く握り続けた。


姉は微笑んでいた。知らない顔の下に、昔から知っている姉の顔が透けて見える気がしたが、今は、その表情のさらなる奥に、底知れぬ悪意を感じた。

我慢できないくらい強い力で、手首を絞められて、僕は悲鳴を上げた。


姉は僕の手を握ったまま、引きずるようにして、避難室の解除パネルまで連れて行った。僕は、手を握り閉め、指紋が触れないようにした。

「それ以上抵抗すると、薬を使うよ」と姉さんは冷たく言った。

力が抜けたように感じた。そのまま姉さんは、僕の手を画面に押し当てた。


すぐにロックが解除され、母さんが入ってきた。

姉と視線をかわし、二人で笑いあうと、床に倒れこんだ僕を見下ろした。

「あの日のことは忘れていないよね」と姉がいった。

僕は何も答えることができなかった。黙っていると、首に何か押し当てられ、意識が途絶えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ