49 彼女の話16
拒めば、あの子に何をされるか判らない。
あたしは必死に母さんにあの子の無事を懇願した。
母さんは、やさしく微笑んだ。
母さんが手配した病院から部屋に戻ると、麻酔でぼんやりした頭のまま横になる。左足に巻かれた包帯を見つめながら、これからのことを考え不安になった。
痛み止めの薬を飲み、目を閉じる。しばらくは外に出ないようにと言われた。
目を覚ますと、枕元に知らない携帯が置かれていた。
おそるおそる触ると、非通知で着信があった。
あたしは、戸惑いながらも、思い切って応答した。
「聞こえているか」
老人のような声が聞こえた。
あたしは、すぐに通話の相手が、祖父だと思った。間違いない。
「顔を合わせたのは一度だけだったな」と祖父は言った。
「もう、今は、あの時の顔じゃないのか」
あたしは何と言うべきか判らなかった。小さな声で、「はい」と答えた。
「そうか」と祖父は言い、深く息を吐いた。
「俺は、お前たちに許してもらえるとは考えていない。それでもお前たちのことは大事に思っている。」と祖父は少しかすれた声で言った。
あたしは、祖父を恨んでいたのだろうか。もう、判らない。異常な出来事が続き、これからの事態が予想できない不安で頭がいっぱいだった。
「俺は、今の状況を把握した」と祖父は続けた。そして、
「お前の母親はいかれている」と吐き捨てた。
祖父は、これからあたしの取るべきことを説明した。祖父の息がかかった者が、母さんの周囲にも潜まされていて、今後の連絡はその者を介して行われる。
あたしは祖父にあの子を無事に返してくれないかと懇願した。祖父は、それは難しいが、努力すると答え、通話が終わった。
あたしは、それから、部屋に閉じこもって連絡を待った。
数日後、祖父からの電話で、あの子の死を知らされた。




