44 掃除屋の話31
親分ことあの老人の死を告げられてから、ぷつりと仕事の依頼が来なくなった。
私は日がな一日何もせずに、部屋でぼんやりしているばかりだった。
部屋を引き払う指示が来る様子もなかった。一度、先輩に連絡して尋ねると、
「いま、あちらはそれどころじゃないみたいだ」と不機嫌そうな返事が返ってきた。もし、部屋から私が勝手にいなくなっても、何の影響もなさそうだが、独断で行動するのは止め、おとなしくすることにした。
一度だけ、望遠鏡を引っ張り出して、あの部屋を見た。
木のうろのように、ぽっかりと開いた暗闇が見えた。人の動く様子も、光の輝きも一切なかった。
もう、あの部屋で何かが起こることはない。
私は、望遠鏡の部品を外し、最初に入っていた箱に丁寧に納めると、留め金をぱちりと閉めた。
それから、数日後、先輩から連絡がきた。
まず、部屋から自分の荷物を持って出ろ、という指示。
そして、仕事の依頼だった。
「今日は、二人だ」
いつも通りに待ち合わせ場所で車に乗り込むと、町はずれのどこかの雑居ビルに到着した。二人を納めるための袋と、作業道具を積んだ台車を持って、エレベーターに乗る。ずっと黙っていた先輩が、「ところで、おまえ、頭は大丈夫だったか」と急に尋ねてきた。むすりとした顔で聞かれると、心配しているのか、義務感なのか、いまいち判らない。
「ええ、まぁ、とりあえず」と答えると、
「そうか」と言ってほっとしたような顔を見せた。意外だった。
目的の部屋は、だたっぴろい部屋で、二人の死体が並べてあった。赤い血の色と、赤い花に包まれた男女の死体。一人は、あの美しい顔をした人。もう一人は、公園で何度も出会った金髪の女性だった。




