43 彼女の話13
手術台の上、麻酔で意識が失われるまでの間、あたしは、弟は一人で眠れるだろうかと、そのことばかりが気になっていた。あたしと同じ顔をした、知らない人と二人きりにされた、可愛そうなあの子。
夢の中で、同じ顔をした二人と、金髪の女性が、楽し気に笑いあいながら、お茶を呑んでいた。どちらがあたしなんだろうと戸惑う。でも、そんなふうに笑う弟は久しぶりにみた。こんなことはあり得ないと思い、夢をみていることに気づく。でも、ひょっとしたらこんなことだって起こりえたかもしれない。そう思って、切なくなり、あたしは泣いた。
しばらくの間は顔の包帯は取れなかったので、小さくあいた包帯の目の隙間から、あの子の画像データを繰り返し見ていた。バッテリーが切れるたびに充電してもらい、頭が覚えこむまで見続けた。
包帯が取れた日、鏡に映る顔は、あたしじゃなかった。
黒髪の女性の顔、あの子の顔だった。
数日後、母さんの家に戻ると、
「あなたの住む場所を別に用意したから」
と母さんにカギを渡された。
それは離れた街の小さな部屋で、もちろん、監視が付けられた。仕事も手配され、おとなしく生活すること、そして、祖父と一切の接触をしないようにと指示された。
別れ際に、母さんは、さよならとは言わなかった。
まだ、あたしを利用するつもりだろうと思った。
部屋にたどり着くと、まず髪を金色に染めた。画像で見たあの子の金髪に近い色で。鏡を見ながら、繰り返し見たあの子の表情を練習をした。
鏡の中であの子が笑っていた。まるで、何一つ悩みがないみたいに。




