41/63
41 彼女の話11
あたしと同じ背丈、体つき、そして同じ顔。表情や仕草まですべて同じだった。
でも、笑顔が違う。あたしは、そんな風に笑えない。
「あなたの考えているとおりよ」と母さんは言った。
「あの子が帰ってきたの」
あたしの顔をした女性が、ゆっくりと近づいてきた。呆然としているあたしの耳元に口を寄せ、
「あなたは憧れでした」とささやいた。
めまいがした。立っていられなくなり、床に手をついた。彼女はあたしを助け起こし、
「以前の私はもう存在しません」と、手にもっていた携帯端末をあたしに手渡した。
「その端末の中にだけ、かつての私が残っています」
そう言ってあたしの目を見つめた。
立ち尽くすあたしを置き去りにして、二人は再び奥の扉から出て行った。扉を閉める前に、「あなたは、もうあの部屋にもどらなくていいから」と母さんは、告げた。あたしは、我に返り、駆け寄ろうとした。
だが、扉は閉じられた。入り口の扉も開かなかった。
あたしは、また、檻の中に閉じ込められた。




