31 彼女の話1
あたしは、あの部屋で見た光景から、ずっと逃げ出すことができなかった。
部屋に男たちが侵入してきたとき、父さんと母さんが、あたしたちをすばやく隔離部屋に逃げしてくれた。本当は母さんも一緒のはずだった。でも、母さんは父さんと残ることを選んだ。
それが、最初の間違いだった。
いや、今考えてみても、正しい選択肢なんて存在したのだろうか。
部屋の中で弟はガタガタ震えて、あたしにしがみついていた。あたしは、室外の様子がうつるモニターをじっと見つめていた。
男たちは、最初に父さんの耳を切り落とした。
痛みに声を上げる父さんを男たちは冷ややかに見ていた。母さんが叫び声をあげ、父さんに駆け寄ろうとしたが、すぐに引き離された。
それから、それ以上の最悪な光景を、ずっと画面越しに見せられた。
あたしは弟の目をふさぎ、その代わりに、父さんと母さんがどんな目に遭わされているか、目に焼き付けていた。
こいつらは、絶対に許さない。
父親の体が、一つずつ切り離されていくのを見ていた。
こいつらを、絶対に同じ目に遭わせてやる。
気を失った母さんを、無理やり目ざめさせ、それからあいつらはひどいことをした。あたしは唇の端から血が流れるのを感じた。
こいつらに、同じ苦しみを与え、後悔させてやる。許しを請わせ、そのあとで息を止めてやる。
ほとんどすべてが終わりかけていたとき、組織の人間が部屋に到着した。
私が復讐を誓った相手は、その場で全員始末された。
なぜ、あたしに残しておいてくれなかったの。




