28 掃除屋の話28
煙草を投げ捨てると、スーツの男が一気に距離を詰めてきた。連れの男が左側に回るのが見える。囲むつもりだな、と思い、あえて後ろに下がらず。前に進んだ。スーツの男が意表を付かれて、舌打ちしながら、右手を私の顔に向けて振る。辛うじて頭をさげてかわしながら、二人の間をそのまますり抜けようとした。
「おい、待てや」と連れの男が怒鳴った。私の襟を掴んで引こうとしたが、ぎりぎりで逃れ、反転して男の背中に回る。肩に手を乗せ、腰を回して床に叩きつけると、どぉん、と大きな音がした。ちらりと視線を向けると、苛立った様子でスーツの男が刃物を取り出したのが見えた。
「短刀は苦手なんだ」と思いつつも、スーツの男の方に体を向ける。倒れた男からは距離を離しつつ、刃物が届かない位置を探りながら近づいた。横に数回振るのをなんとかかわせたが、ツナギを少しかすった。
男が手を伸ばして突いてきた。伸ばした腕の外側ぎりぎりでかわす。かわしながら左手を肘に添え、右手で刃物の上から男の拳を握る。男の肘から曲げながら、肩の根元に向けて力を送りながら放り投げた。刃物が飛んで床を転がっていった。
すでに息が上がりそうだった。逃げるなら今しかない。
そのまま、玄関に向かおうとした。が、倒れていた連れの男が猛然と追いかけ、私の背中から両手を回して掴んできた。掴まれたときに肩を張っていれば、肩をゆるめて外すことができるはずだった。だが、もう力がでない。
仕方なく前の扉を蹴とばす反動で、男ごと背中から床に倒れた。
しかし、男は私を掴んだまま離そうとしなかった。肘を振っても打撃が十分ではなかった。足をバタバタさせたが、諦めた。
見上げると、スーツ姿の男が立っていた。乱れた髪を撫でつけながら、
「やっとおとなしくなったか」と気持ち悪いくらい落ち着いた声で言った。
「知ってることをすべて話してもらうために、別に部屋を用意している」と微笑みながら私に告げると、「まぁそれはそれとしてだ」と、私の顔面を蹴り飛ばした。目の奥に光が点滅し、鼻の根元が熱くなった。たっぷり流れ出たものが唇から顎までを浸し、そのまま気を失った。




