26 掃除屋の話26
その日の夜だった。
あのあと、けっきょく眠ることは出来ず、横になって天井を眺めていた。一度だけあの部屋を見たが、人の姿は見えず、そのうちカーテンが閉じられて真っ暗になった。
外に人の気配がした。音の数からして、一人ではない。
施錠は間違いなくしてある。ひとまず起き上がり、部屋の中央から扉を見つめた。ドアノブを動かそうとする音。訪問者は一度だけ試みたが、静かになり、それから微かに金属の音が聞こえた。しばらく時間をおいて、錠がゆっくりと開けられた。
扉の向こうに二人の男がいた。
一人は、掃除場所で出会ったスーツ姿のチンピラだった。もう一人の顔には見覚えはない。土足のまま部屋にあがってきた。
「久しぶりだな」とスーツの男が薄く笑った。もう一人の連れの男は、不機嫌そうな顔でこちらを睨む。何を尋ねるべきかと、私が悩んでいると、スーツ姿の男が、「この部屋は、親父が手配したらしいな」と先に話し出した。
「倒れてから、親父の側近に転ぶ奴が増えた」と言い、
「だから、合鍵は簡単に手に入った」と、侵入の段取りと、組織の崩壊状況を説明してくれた。さらに、肩越しに背後の男を指さし、「こいつは、公園でお前に投げられたやつだ」と教えてくれた。
初対面じゃなかったのか、と思いつつ、あの時のコンビの片方、茶髪の男が先日袋に入っていたのを思い出す。おそらくスーツ姿の男が始末したのだろうから、組織内で異動したのか。彼らの業界はくっついたり離れたりとせわしないなと思った。
「さぁ、本題に入ろうか」とスーツ姿の男が真顔になった。




