25 掃除屋の話25
あまり眠ることができなかったが、このまま部屋にいるのは気が進まなかった。
人がいる場所に行こうと思い、坂道を降りて、町中の公園に向かった。
日はかなり上り、公園の中に何人も利用者がいた。いつも座るベンチは開いていたので、腰を下ろす。ゆっくりと周りを見回し、不審な人物がいないか確認する。とりあえずは気になるような姿は見えない。深く息を吐いた。
いろんなことが頭をめぐる。
老人の話、双子のこと、いなくなった一人と、私が袋に入れた別人のこと。
それらがぐるぐると思考の中で行き来をするが、答えは思い浮かばなかった。
「お前に接触してきたやつが張本人」と言った老人の言葉は、確かなのだろうか。考え続けてるうちに目の奥がじーんと痛み、思わず目を閉じて瞼をマッサージした。寝不足だった。しばらくもみ続けて、目を開くと、あの金髪の女性が目の前に立っていた。
「おにーさん、これで3回目だね」と女性は満面の笑顔だったが、すぐ、
「お疲れみたい」と心配するような顔になった。
私は、不意打ちをくらったような気持ちで、
「これは、どうも」と曖昧な返事をした。
「何それ、ウケる」と彼女は再び笑顔に戻った。
よく会うな、と思いながら、私はじっと女性の顔を見つめた。
金髪で、顔立ちは整ってはいるが、地味目の印象だった。今日は薄めの化粧だからかもしれない。私の視線を感じたのか、「どしたの」と彼女が不審そうな表情をし、すぐに、「まさか、運命感じてた?」と、びっくりしたような声をあげた。違います、と答える時間も与えられず、
「いや、ごめん、私ずっと想っている人がいるし」と言う彼女の表情は、今までで一番真剣な表情に見えた。
「そうなんですね」と言った私の言葉は、どういう意味に響いただろうか、だが彼女は、「そうなんですよ」と言い、うふふ、と笑った。「ツナギじゃないの初めてだ」と彼女は言いながら、今度は自分のターンのように、じっくりと私を見て、「まぁ普通だね」と評価した。
今から仕事なんだぁ、と彼女は言うと、空を見あげた。まぶしそうな顔をして、「夏が来るねぇ」と呟いた。
「海に行きたくなります」と思わず返していた。もう何年も行ってなかったが。
「海、いいねぇ」と女性は、にぱっと笑った。
「浜辺をサンダル履きで歩いて、波に足を浸す」私の記憶にかろうじて残る海のイメージを口にした。
「あたし、サンダルは履けないな」とぽつりと独り言のように女性は言い、「行けたらいいね」と私に笑いかけた。
それから、女性は私に手を振り、仕事に向うため、公園の反対側の出口に歩いていった。
彼女の後姿を眺めながら、老人の言葉を思い出していた。




