23 掃除屋の話23
しばらく沈黙が続き、私の見解を求められているのでは、と少し不安になる。だが私の困惑など気に留めることなく、老人は「そろそろ時間だ」と言った。
「もう一度、あの部屋を覗くんだ」
促されるまま、先ほど見たときには真っ暗だった空間に目を向けた。
夜明けの光が微かに登りつつあったが、マンションの裏窓は、まだ暗いままだった。やがて、部屋に動きが見えた。幕が開くように、カーテンが左右にスライドし、光が灯された部屋の内部が見通せるようになった。
誰かが立っていた。
その人物は、少し首を傾け、正面を見ている。微動だにせず、虚ろな眼が、こちらのレンズを見据えていた。整った顔立ち。
その顔は、あの日、袋に入れた、花一輪がこめかみに咲いたあの死体と同じ顔だった。
「美しい顔だろう」と老人は言い、
「だが、すでに死んだような顔だ」と呟いた。
ずっと見つめている間、ほぼ静止状態のため、人形のようにも思えるが、よく見ると、揺らぎのように微かな動きが見える。私は不安感が増し、思わずレンズから目をそらした。
「今見たのは、間違いなく俺の孫だ」と受話器から聞こえたが、まるで、老人が自分に言い聞かせているようだった。かろうじて守ったはずが、すでに失ってしまったかのようにも聞こえた。
私は少し落ち着きを取り戻すと、老人に尋ねた。何を、私に求めているのかと。
「残った孫を、囮にする」と老人は、私に告げた。
「孫を襲った奴らは、もう一度やってくるはずだ」
組織の内部がかなり浸食され、情報が簡単に漏れる。それを逆手にとって、部屋の警備状況について、手薄な時間の情報を、目立たないように紛れ込ませた。
「お前は、そこにいて、あの部屋を監視するふりをしろ」
実際に監視しなくてもいい。ただ、「偽の孫」の掃除に関わった人間が、こちら側に引き込まれているという情報が、奴らに対して有効だからだ。
奴らは、まだ俺に隠したい情報がある。それをこちらが握っているという脅しが必要だ。
俺は、舐められたまま死にはしない。
「もし、お前に接触してきたやつがいれば、そいつが張本人だ」
老人との通話が終わった。




