17 掃除屋の話17
「私は、この部屋で何をすれば」
先輩はむすっとした顔のまま、「特に指示はない」と答えた。
「今のところはな」
倒れたトップの目的が掴めないまま、宙ぶらりんの状況は好ましくはないが、静観するしかなった。だいいちトップの病状が悪化すれば立ち消えになる可能性もある。淡い期待かもしれないが。
そんな私の希望的観測を裏切るかのように、先輩は言った。
「それが、思いのほかぴんぴんしてる」
消えかけていた命数を、気力で引き戻すかのように、トップは極秘に行動を開始した。かなり精力的に。組織のごく側近にだけに指示をし、こちらに連絡をとり、管理者を動かしている。
先輩が、管理者から伝えられた感触では、孫の死への復讐心だけとは考えられず、どうも何事かを阻止するための手立ての一つとして、この部屋が提供されたようだった。
「これを持っていくように言われた」
先輩は、持ってきた大きな箱から、望遠鏡を取り出し、床の日焼け跡を基準にして据付た。いっぺんにこの部屋の意味合いが変化した。
私が不満そうな顔をしているのを、さすがに先輩は申し訳なく思ったのか、
「お前の掃除の仕事は、減らせと言われている」と告げた。
「はぁ」と力なく返事をした。拒否権などない。
新たに指示用の携帯を渡し、先輩は帰って行った。
しばらくは不貞腐れて横になっていたが、やがて飽きると、部屋の明かりを消し、望遠鏡を低地のマンションに向けた。
驚くほど、マンションの裏窓が、鮮明に見え、慌ててすぐに目をそらした。
嫌な予感しかなかった。




