16 掃除屋の話16
美しい死に顔。死を疑わせるような薄く開いた目。
流れ残った涙を覚えている。
「孫と護衛の二人があの日の対象者だった」
掃除の仕事依頼は、事前の契約時に渡される特定の連絡装置によって行い、更に、別途渡される指定の番号に連絡する。そして、依頼者の情報は極力、守秘される。あの二人の処理を依頼したのが誰か、本来は明かされることはない。
「だが、そもそも今回の依頼者は不明だった」
誰かが何かの手段で正規の連絡機器を手に入れ、発信位置を偽装して連絡をとった。はっきり判らないから、AとBが互いを非難しあっている。
もう、倒れたトップには隠せない。ひとまず、俺たちの管理者が状況の説明を求められ、釈明に奔走した。うちは依頼どおり行っただけだが、そう簡単に納得しない。せめて、死に顔を見せてくれと頼まれたが、それもかなわない。
ということは、あの二人は細かく処分されたのだろう。
『一切の痕跡を残さないこと。遺伝子のかけらさえ』それが依頼者からの指示だった。そして、間違いなく実行された。
「そうか判った」と、倒れたトップはいうと、俺たちの管理者を残して、病室を人払いをさせた。
「いつもの仕事ぶりに感謝している。お前たちは頼まれた仕事を誠実に果たしただけだ。だが、孫は私に残った最後の身内だった。殺した奴は絶対に許さん。」そう言って、管理者の目をじっと見つめた。
うちが何か償う必要があるか、本来はないと思うが、そう言い張れるほど掃除屋は強くない。何らかの代償が必要だ。
「ところで」と先輩は私に問いかけた。
「この部屋から低地のマンションが良く見えるか」
急に何の話かと思ったが、「ええ、まぁ」と曖昧に答えた。
やっぱりなぁ、と先輩は頭をかいた。
「どうも死んだ孫はあの低地マンションに住んでいたらしい」
そして床の3つの日焼け跡を指さし、
「この部屋から孫を監視していたやつがいる」
「つまり、この部屋は、トップの手配で用意された」
「そういうことだ」
倒れたトップは、組織の人間を疑っている。別ルートとして、掃除屋の組織を利用するつもりなのだ。




