15 掃除屋の話15
数日は何もなく過ぎたが、ある日、先輩から連絡があった。
「今日は仕事の話じゃない」
そう前置きすると、直接話した方がいいからと、先輩がアパートに来ることになった。
部屋に入ると周囲を見渡し、「相変わらず何もないな」と呟くと、床に腰を下ろした。
「お前も知っているだろうが、俺たちの依頼は、県内を仕切るでかい組織からのものがほとんどだ」
そういう話を聞いたことがある。最近は県だけでなく周囲の県境まで勢力を伸ばしているとも聞いた。
「そのトップが倒れて入院した」
それが今月の頭ごろだ。同じ時期から、依頼の数が増えてきている。
「跡目を狙っているのは、傘下の二つの勢力で、一つは倒れたトップに近いが、もう片方はことあるごとに反抗してきたらしい。」
それでも組織から排除されないのは、若い世代の構成員からの支持が大きい。
「街を徘徊する若いやつを勧誘して、急激に数を増やしている」
公園で自分をカツアゲしてきた茶髪の男を思い出す。背後にいた男も、そういった奴らに違いない。だが彼はこの前死体になっていた。
「それで、今厄介なことが起こっている」
トップには孫がいるらしい。稼業には関わらせないが、万が一のために護衛をつけている。
「その孫が殺された」
仮に、トップに近い方を「A組織」、そうでない方を「B組織」とする。Aは、Bがやったと非難し、Bは逆にAの策略だと反論する。
「だが、誰が殺したか、まだ、判っていない」
先輩は、ポケットから写真を取り出した。
その顔は見覚えがあった。二人いたうちの一人だった。
美しい顔をした、小さな花を咲かせた死体だった。




