13 掃除屋の話13
握る力が強いと相手は警戒するので、気づかれないように、だがゼロじゃない加減された力で握る。相手の襟首を握ると、握った側は優位に立ったような気がするが、片手の分だけ損をしている。そこが狙いだ。
私は右手を少し立てた。相手の右ひじが少し上がり、それに添うように自分の左肘を伸ばした。まっすぐでなく弓なりにそらした肘が相手の右ひじをゆっくりと持ち上げる。そのまま腰を右側に回して、回りながら腰を落とす。スーツ姿の男がぐるんと回って床にうつぶせになった。
ちょうど床はさっきまで一面の薔薇色の場所だったが、今はすっかり綺麗だ。そこにスーツ姿の男を押さえ付けた。
男は、暴れながら罵声を吐いた。私は無言で押さえ続ける。スーツのポケットの携帯が鳴り始めた。代わりに取り出して男の顔に着信画面を突き付けた。
男が少し冷静になったようなので、警戒しながら解放した。男はこちらに飛び掛かりたい気持ちを懸命に押さえながら、携帯の相手と通話していた。
男は怒りの感情のまま大声で会話していたが、通話相手が途中から変わったあと、直立不動になり、電話なのにしきりに頭を下げていた。
通話後、私を睨みつけたが、黙って先輩の書類にサインし、扉を叩きつけるようして出ていった。出ていく前にもう一度私を睨みつけた。怒りで燃える目を久しぶりに見た気がした。
「行くぞ」と先輩に促されて袋を抱えて部屋を出た。
さっきのやり取りは、掃除屋の上部組織に話を通したらしい。
「それにしても」と先輩は呟いた。
「嫌な感じだな」




