10 掃除屋の話10
先輩は時間どおりにやってきた。
私の顔を見るなり、
「二日続けてお前に会うとは」と不機嫌そうにいった。
「一年前はよく顔を見に来てくれましたよ」
「そうだったか」と先輩は本当に覚えてなさ気に言った。
ほとんどない荷物をバンのトランクに乗せ、私の引っ越し先を目指して車が走り出した。深夜の道路は空いていて、滑らかに進んでいく。
10分ほど走り続けたあと、「先輩」と話しかけたが、返事はなかった。諦めずにもう一度話しかけると、嫌そうに、なんだ、と答えてくれた。
「私の養父のことはご存じですか」
返事までしばらく時間が空いた。
「ああ、よく知っている」
薄々、気づいていたが、先輩も昔、養父に教えを受けたのだろう。体の動かし方にそんな気配を感じていた。
それ以上は聞くことを止め、窓の外を黙って見つめた。
1時間ほど車が走ったあと、新しい街にたどり着いた。少しだけ高台の道を登った先に、古いアパートが建っていた。
部屋に入り窓を開けると、高台の背後にある真っ暗な森が見えた。
反対側の窓からは、見下ろすように低地に建つ巨大なマンションの裏側が見える。日焼けした床には、何かが置かれたような3つの丸い跡が残っていた。先輩はその跡を見て、眉間に皺を寄せた。だが何も言わず、カギを渡すと、
「また、連絡する」と言い残して帰っていった。
一人になり、床に横になると、すぐに眠りに落ちた。
昔先輩に、袋に詰めた死体のその後のことを聞いた。
「できるだけ細かくする」先輩は言い、
「俺はそれには関わらない」と付け加えた。俺たちの仕事は何段階にも分かれている、と。「そのあと専門業者に引き渡す」
だが、例外もある。
「時には、上の指示で、特別の保管場所に持っていく。自前の冷凍庫があるらしい」
例外の基準は、誰にも判らない。




