次期魔王とお見合い写真
この世界の国は大きく分けて3つある。ひとつは唯一神を崇拝するクライスト。そして、魔力を持つ人間所謂魔族が住む国アーケロン。多神教の国ケルティ。クライストはアーケロンの住民を『異端』と蔑み宣戦を布告した。ケルティは絶対中立を宣言。これにより、神の国と魔の国の争いが起きた。それが30年前の話である。10年ほど前から戦況はこう着状態になり、現在はあちこちで小規模な戦闘が起こってはいるものの大規模な戦争は起こってはいない。アーケロンの王である現魔王がケルティ出身の平和主義であり、積極的な戦闘を拒んできたからだ。しかし、王位を誰が継ぐかで内輪もめ状態になっていた。苦渋の選択で現魔王の娘を次期魔王とすることになった。だが、補佐となる夫をまだ見つけていなかった。現魔王は補佐にふさわしい男を選定することにした。
「と言うわけだ、アリス。この写真の中から選ぶがよい」
そういって現魔王であるプルーガは数枚の写真を娘であるアリスに見せた。
「いやです。まだ結婚は考えてません」
問題があるとすれば、娘であるアリスが結婚についてまったく無頓着なところだろう。魔王はため息をつく。
「いいか、アリス。お前ももう嫁入りの年なんだぞ。それが何だ。城で日がな一日遊んでるだけでないか。私をこれ以上困らせないでくれ」
アリスは「むむ・・・」とうなる。父親に心配はかけたくないが、結婚はどうでもいい。それがアリスの心境である。
「とりあえず、写真だけでも見ることにする。これで、妥協して」
「ま、まぁ妥協しよう。うん。気に入った男がいたら言ってくれ」
魔王はアリスの部屋から出て行く。入れ違いに一人の少女が入ってくる。
「アリス~、魔王様相当参ってるね」
赤い髪と赤い瞳の少女ルーシーが部屋のベッドに腰掛ける。
「そうよね。まぁ、お父様の仕事は苦労することだからね」
アリスは無責任なことをいいながら写真を見ていく。
「トロメアの騎士に、カイーナの貴族・・・ってなんでこう、どこにでもいるボンボンなのかしら。外部からって言ってもこれじゃあ、外部でないような気がするわね・・・」
写真一枚一枚見ていくアリス。
「あ、でもこの人はなかなかじゃない?」
そういって見せてきたのはあきらか自分の年齢の倍くらいある紳士。
「お父様は何を考えてやがるのでしょうかね・・・」
アリスの声から怒りが読み取れる。
「こんなのが夫になろうことなら舌噛み切って王の血族を根絶やしにしてやるんだから!」
アリスの不穏な発言にオロオロするルーシー。
「お、お、落ち着いてよ。まだ写真あるんだから。この人なんかどうかな?」
写真には歯をキラリッと出した見るからにイケメンな男が写ってる。
「却下」
「え~、なんで?なんで?かっこいいじゃない。まさにアイドルみたいな感じで」
ルーシーが足をばたばたさせながら聞く。
「だって、この手の男って顔がイケメンだからって鼻にかけるような男が多いからよ。もしくは、女をただの召使かほかのものみたいにしか考えないかどちらかだと思ったからよ」
「うわっ、めちゃくちゃ生々しいこと言うわね・・・」
そう言って部屋に入ってきたのはアリスと同い年くらいの蒼髪をショートカットにした女の子だ。
「サターヌ、どうしたの?」
アリスが手近にある椅子に腰掛けるよう進める。
「ああ、いい、いい。ルーシーを引き取りに来ただけだから。まったく、もうお休みの時間でしょ」
時計を指差してサターヌはルーシーのそばまで行き忠告する。
「ええ~、だって~」
「だってじゃないの。まったく」
サターヌは妹をしかるような口調で話す。
「は~い。じゃあね、アリス。おやすみなさい」
「はい、おやすみ~」
サターヌはルーシーを抱き上げると部屋を出て行く。
「ちょっと、サターヌ。私一人で部屋に帰れるよ」
「何言ってるのよ。ルーシー、一人でトイレ行けないで泣くじゃない」
「そんな昔のこと引っ張ってこないでよ」
声が遠ざかっていく。あの二人の仲のよさは見ていてホッとするアリス。
「さて、私も一通りは見ていきますか」
写真をめくっていく。写っている写真には性格に問題のありそうなイケメンか、ボンボンが写っている。
「それにしても、なんでこうイケメンかボンボンの写真しか入れてないのかしら。ん・・・」
不意に一人の青年に目が行く。
「って、何で別世界の住人もリストに入れるかね。あの平和ボケ魔王は・・・」
出身地はこことは別の世界と書かれている。そして、何より惹かれるのはその雰囲気。人ごみに入ればすぐに溶け込んでしまいそうなほど、外見の特徴が少ない。しいて特徴というなら年の割りに大人っぽい雰囲気を出しているところだ。
「名前はヒカルって言うんだ。年は私より少し年上かな・・・。決めた。この人に会ってみたい」
これがアリスの始めての一目惚れである。
「で、この青年に会ってみたいのか」
魔王は玉座に座って娘の話を聞く。
「はい。でも、なぜ別世界から招くのですか?」
「深い意味はないんだ。ただ、あちらの世界では『魔力』は存在しない。にもかかわらずその青年には『魔力』が微量ながら備わっている。実に興味深いと思わないか?」
うれしそうに話す魔王。
「まぁ、興味深いですけどね・・・。私、この人に会ってみたいと思うのですけど」
魔王は少し驚く。そして、威厳ある顔に戻す。
「いいのか。ほかにも居たはずだが。たとえば、カイーナの貴族とか、年は離れているがこの人物もなかなかの好人物だと思うぞ」
そう言って写真を取り出す。さっき嫌と思った男の写真だ。
「結構です。それとひとつ言わせてください。この方が私の夫になるなら、私はお父様のことを生涯『魔王様』と他人行儀で呼び続け、この男性を殺害しますよ」
魔王の額に冷や汗がでる。
「わ、わかった。そこまで嫌がるなら進めないよ。『魔王様』とお前に呼ばれるのはいささか違和感がありすぎる・・・」
魔王はなかなかの親ばかである。
「それでは、使いの者を誰にするか・・・。まぁ、ルーシーあたりが適任かな」
魔王はそう判断すると、ルーシーを呼び出した。しばらくして、ルーシーが王の間に現れる。パジャマ姿にぬいぐるみを抱えて目をこすってる。
「・・・。すまんな。寝てるところ起こしてしまって・・・」
「ふぁぁ。だいひょうふれす。で、なんでしょうか・・・ふぁ」
あくび交じりにルーシーは魔王に聞く。
「かくかくしかじかでな・・・」
「はい、わかりました」
アリスは二人のやり取りを見て突っ込む。
「本当にわかったのかしら・・・」
ルーシーはあくびしながら
「はぁぁう。まったく・・・」
わかってなかったらしい。
「と言うわけで、この世界に行ってきてもらえんか?」
船をこくルーシーに魔王は話しかける。ビクッとしてルーシーは魔王のほうに向く。
「りょ、りょうかいでふ」
かなり眠そうだが、大丈夫なのだろうかと心配する魔王とアリス。
「それでは頼むぞ。なるべく、娘を宣伝してやってくれ」
「たとえば?」
「そうだな。たとえば、かなりの発育良好で性格は好く、尽くして尽くしまく・・・ぶべら」
魔王の額に何かがあたる。アリスの手に持ってるのは拳銃。
「父親が娘のことをそんなふうに言うのは、問題あると思うんですけど。ルーシー、もし連れてこれなくて帰ってきたら、お仕置きするね」
ルーシーに冷や汗が浮かぶ。
「サーイッテキマス、ふぁー」
あくびしながら王の間を出て行く。
「大丈夫かしら・・・」
額を押さえながら魔王も起き上がる。
「まぁ、大丈夫だろう」
魔王親子はまたひとつ心配事ができたと思うのであった。
「無事到着っと・・・。ふぁ、眠いな・・・」
ドアの前に立つルーシー。
「もうだめ。おやすみ・・・」
これが光とルーシーが遭遇する2時間と24分と18秒前の話である。
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