少年と遊ぼう 前編
測定から数日が経ちようやくここでの生活に慣れてきた光。夕食の後にメフィスに呼び出されてしまった。
「ごめんなさいね~。実はね、明日の朝食の後私の部屋に来てもらえるかしら?」
女性の頼みを断れない光はというと
「はい、喜んで」
ホイホイ承諾してしまったのだった。
次の日の朝、メフィスに言われた通りメフィスの部屋の前に来た光。ノックを3回ほどしてみる。反応がない。
「メフィスさん。光です。約束どおり来ましたよ」
やはり反応はない。しばらくして足音が聞こえてきて、ドアが開く。
「・・・」
少し開いたドアの向こうにいたのはこちらをのぞく一人の男の子だ。
「・・・おにいちゃん、だれ?」
「あ~っと、メフィスさんって知ってるかな」
正直に言うと小さい子供相手にするのは苦手である。
「おかあさんのこと・・・。じゃあ、おにいちゃんがヒカルおにいちゃん?」
「あぁ・・・。たぶん・・・。ってお母さん!!」
急にドアが閉まってしまった。
「ああ、ごめんごめん。驚かせちゃったな・・・」
さっきと同じくらいドアが開く。
「これ・・・。おかあさんがわたしてって」
隙間から小さな手と一枚の紙が出てくる。
「ちょっと借りるぞ」
「うん・・・」
『ヒカルちゃん、この手紙を読んでいるときたぶん私はいないでしょう』
「ま、まさか・・・」
『なぜなら仕事で忙しいからです』
「なんだよ、このやりとり。二番煎じもいいとこじゃねぇか!」
『頼みと言うのは、手紙を渡してきた男の子、「ファウスト」と遊んであげてほしいのです。本来なら母親である私が遊んであげるべきでしょうけど、仕事が離せなくて都合がつきませんでした。主人のほうも仕事があって・・・。アリスちゃんにいつも頼んでたのですけど今回はアリスちゃんは出掛けられていて頼む人がヒカルちゃんだけになってしまいました。こんな形で頼むのも恐縮だけど、お願いします』
「と言われてもなぁ・・・」
ドアの隙間からこっちを伺うファウストという名の男の子。
「まぁ、引き受けたからには仕方ないか」
光はそう言うとしゃがんでファウストと目線を合わせる。
「まず、名前を教えてくれるかな?」
「ふぁ、ふぁうすと・・・」
「ファウストか。俺は光って知ってるわな。よろしくな」
「うん、よろしくヒカルおにいちゃん」
「さぁ、これで友達だ。外で遊ぶぞ」
「ともだち・・・。うん」
ドアを開けて元気に出てきたその男の子を持ち上げて肩車する。
「どうだ、高いか?」
「う~ん、おとうさんがしてくれたほうがたかい」
「そうか・・・」
光は苦笑する。身長は175cmと高いほうではあるが、特別高いと言うわけではない。
「でも、たかい」
そう言うとファウストは光の頭に手を回してつかまる。
「じゃあ、何して遊ぼうか・・・」
「うんとね、なんでもいい」
「なんでもいいか・・・」
「いいか、よく見てろよ。こいつをここに置くとだな・・・」
「うんうん」
そう言って光はとある部屋の前にバナナの皮を置く。
「で、ノックをする」
小気味よい音が廊下に響く。すると、少ししてから人が出てくる。デウスだ。
「誰かようか・・・ってぬぐぁ!!」
見事昭和のコントのようにバナナの皮をふんずけて転ぶ。本当にバナナの皮でこけるんだな。光は隣にいるファウストに目を向ける。
「な、面白いだろ?」
「お、おもしろ~い・・・」
おかしそうに笑っていた。
「っててて。おい、ヒカルか。ここにバナナの皮を仕掛けたのは。怪我するだろう。コントじゃないんだから」
「うっさい、歩くコント人間。それより、話があるんだ」
「あん?」
「つまりだ。子守を頼まれたはいいが、どんなことすればいいかわからないって事か・・・」
デウスの部屋で光とファウストはくつろぐ。
「ああ。何かあるんだったら教えてくれないか?」
「断る」
あっさりと断ってしまった。
「な、なんでだよ。教えてくれよ」
「そういうのは本人たちが決めるもんだ」
「そっか・・・」
光は部屋を後にする。
「じゃあさ、漢の遊び『スカート捲り』を教えてあげよう」
「スカートめくり?」
不穏な発言を耳にするデウス。
「そうだ。『スカート捲り』だ。これをやって初めて漢になることの出来る遊びだ。やってみるか?」
「うん」
ファウストはうなずいて光についていく。だが、それを邪魔するものが一人。
「ちょっと待った!!」
デウスだ。どうやったかわわからないが、光たちの前に立ちふさがる。
「邪魔するな、デウス」
「いいか、よく聞け。そんな遊びをファウストに教えてしまえば、メフィスさんに絞られるぞ。わかってるのか?」
光は目を瞬いて少し考える。
「大丈夫だ。デウスが教えていたと言っておく」
「何が大丈夫なんだ。俺が大丈夫じゃないぞ」
「じゃあ、『スカート捲り』を超える遊びを教えろよ。さもなくば、お前に濡れ衣を着せて悪の限りを尽くすぞ?」
光の暗い笑顔でデウスは仕方なく引き下がる。
「わ、わかった。とりあえず、外に出てくれ」
一方その頃アリスは・・・。
「どうりゃあぁぁぁ!!」
無数の魔力弾が6つの砲身から回転しながら撃ち出される。その反動はすさまじいはずだが、彼女はその細腕で制御しきっている。撃たれた相手は身をよじりながら体を地に伏せていく。
「お見事。さすがアリスね」
傍らにいたのはスピアを構えているサターヌ。アリスはその両手で持っているガトリング砲を構えなおす。
「それはどうも。それにしても、どうして王女である私が魔獣退治に出ないといけないのかしら」
不満です、という表情でサターヌを見る。
「別にいいじゃない。たまにこうやって体動かさないと太るわよ」
「うっ」
「太ったら愛しのヒカルに愛想付かされるんじゃないかしら?」
「次!次出てきなさい、魔獣ども。成敗してあげるんだから」
むやみにトリガーを引き続けるアリス。それをサターヌは見て思う。
「愛想も何も、ヒカルのほうはアリスにこれぽっちも女の子と見てないみたいだけどね」
そんな独り言をアリスは聞くことも無く、撃ちつづけるのであった。
目の前に広がるのは砂地の平地。男三人が何をしているかというと
「そうらいったぞ」
「わ、わ、うわっ」
高めのボールをキャッチし損ねて頭に当たるファウスト。転がっていくボールを必死に追いかけて拾い、デウスに投げる。だが、投げたボールはデウスの手前で落ちてコロコロと足元まで転がっていく。そして、デウスはそのボールを拾って光に投げる。光はそのボールを顔面でキャッチした。
「わりぃ、つい・・・」
「ほ、ほほぅ・・・」
ボールをデウスに投げ返す。投げる順番など関係ない。ボールはデウスの股間にヒット。
「悪いな」
「は、はははっ」
デウスの額から脂汗が流れる。ボールを拾い上げると今度は光の鳩尾付近に投げる。それを皮切りに、ボールのぶつけ合いが始まった。
「何をやってるんだ、あの二人は・・・」
その様子を見ていたのはベルゼー。ベルゼーはやれやれと言った感じにファウストに近づく。
「あ、おとうさん」
「今日はデウスとヒカルが遊んでくれたのか。楽しいか?」
「ううん。いまはたのしくない。だって、ぼくだけなかまはずれだもん」
そう言って地面に座り込む。それを見たベルゼーはファウストを立ち上がらせて肩車をする。
「まったく、あの二人は。おい!そこの二人、何やってんだ」
「げっ、ベルゼーの旦那だ。逃げるぞ」
あちこちに青あざを作ったデウスは逃げようとする。
「待て待て。逃げる必要ないだろう」
「ファウストの親父なんだよ。旦那は」
「・・・、確かにまずいな」
二人は一度うなずくと、走り出した。
案の一つとして実際に光たちがスカート捲りをすることを考えたのですけど、そんなことしちゃぁおしめぇよと思ったのでやめました。いろいろまずいですからね・・・。