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第5話

衝撃の一夜から3日が経った。レトは朝から悶々としていた。


「レト、起きないと遅刻しちゃうよ?」

「ごめん、スティル。今日はお腹が痛くて動けそうにないんだ」

「そうなの?それじゃあ伝えておくね。あとでご飯持ってくるから」

(スティルごめん。痛いのはお腹じゃなくて頭なんだ)


襲撃計画を知った夜から3日経ちレトは一人悩んでいた、むろんこの3日間何もしなかったわけではない。レトなりにそれとなく噂好きの使用人たちから情報を聞き出した。


(それでわかったのがララティーナ様のことぐらいだし。)


ララティーナ・レドモンド、今年15歳になる公爵家の娘である。第二王子の婚約者で、すでに才女としても名高く、両親はもちろん兄姉からも可愛がられている。


(情報を集めたところでボクにできることなんて限られてるし)


最初に考えたのは誰かに襲撃計画のことを伝えて妨害してもらうことである。


(でも、公爵に直訴なんてできないし、下級使用人のボクが話せる人なんて限られている、一番偉い人でバレッタ侍女長。ほかに上の人に顔か聞きそうなあたりでコック長あたりだけど、信じてもらえるか、仮に信じてもらえたとしてどうやって情報を入手したかが問題になる)


たかだか下級使用人がどうやって情報を入手したか問題になる。獣化や精霊魔法のことを言えば、それを黙っていたことがさらに問題になるであろう。


次に考えたのが直接妨害することである。


(だけど、ボクって別に剣の腕が立つわけでもないし、魔法も一番強いくて、ボールを投げるぐらいの強さで魔法を飛ばせるぐらいだし)


襲撃時に助けに入ったところで足手まといがせいぜいで、役にたたないであろう。


(それにあの時内通していた屋敷の人間も気になる。屋敷の中にも襲撃犯な仲間がいるみたいだし)


レトが一人唸って考えていると扉をノックする音が聞こえた。


「レト? 入るよ。朝ごはん持ってきたから調子のいい時にでも食べてね」

「スティル。ごめんね。ありがとう」


(もう朝食の時間がやるなら今しかない)


スティルが去るのを確認すると、レトはベットから起きて荷物をまとめる。


(一か八かうまくいきますように)


朝食中で人気がない離れを、見つから無いようにそっと出ると、いつものように獣化して屋敷の外へ出る。

森へ入り隠れ、屋敷から人が出てくるのを待つ。


(やったことないけど、タイミングさへ合えば大丈夫なはずだ)


しばらく待っていると、屋敷から質素だが仕立てのいい馬車と、護衛の馬に乗った騎士が何人か出てくる。


(あれがララティーナ様の馬車かな?)


ララティーナの馬車が出てから、すぐにレトは強く遠吠えをする。護衛は多少ざわつきを見せたが、警戒はするが屋敷に戻る気配はない。


(屋敷に戻ってくれればと思ったけど、遠吠えぐらいじゃ無理か。でも、周りを警戒してくれてはいるみたいだね)


その後も、レトは馬車と距離を置きながら追跡しつつ、たまに遠吠えを発した。

もう少しで視界の悪い森の地帯を抜けるというところでレトの耳が反応した。


(いる! 森の中数は15ぐらいかな。森の中に隠れるようにして様子を見てる)


森の中にいる襲撃犯をレトが先に見つけたのである。そこにはごろつきのような男たちが15人ほど隠れており、ララティーナの馬車が来るのを待ち構えていた。


(あとはタイミングだ、遅くても早くてもダメ、チャンスは一度切り)


レトは待った今までの人生でこれほど焦りながら待ったことがあっただろうか、一秒が十秒にも感じる。そんな時間を感じながら待ち、その時が来た、レトは吠えた今までよりも強く遠くに響く遠吠えを。


その瞬間、森に隠れていた男たちに狼が襲い掛かった。レトはララティーナたちを追い返すためだけに吠えていたわけではない、周りにいた狼たちを徐々に集めていたのだ。そして、奇襲をするつもりが狼たちに奇襲された男たちは森から街道に追い出される、ちょうどララティーナの護衛たちの前に。


(やった! 大成功だ! 狼たちもよくやってくれた!)


突然、狼に襲われて森から出たごろつきたち、それに驚いて進行を止めたララティーナたち一瞬の末、先に動いたのは護衛の方であった。


「敵だ! 剣を抜け! ララティーナ様をお守りするのだ!」

「お前ら! 人数はこっちが多いやっちまえ!」


護衛にやや遅れ、ごろつきたちも動き始める。しかし、相手は公爵家の騎士。正面から戦えばごろつきたちは敵ではなかった、中には早々に逃げ出す者も出る始末であった。


(これでララティーナ様たちは大丈夫かな)


その様子をレトは少し離れたところから眺めていた。ゆえに一番最初に気が付いた。護衛のうちの一人が不審な行動をとっている。一見するとララティーナを背に守っているようだが徐々に護衛たちとの距離が離している。まるで邪魔されないように。


(マズイ!)


レトもなんでそう思ったのか自身でもよくわかっていない、一種の勘だったのかもしれない、考える前に身体が動き出していた。



護衛の一人は今回の襲撃事件に内通している男だった。男は騎士の中では可もなく不可もなくという立場だった、上に行きたいと頑張るっても上に上がれず、かといて手を抜くとすぐ下に追い抜かれる。そのせいかもしれない男は怪しげな話に大金を積まれ乗ってしまった。


元々ごろつきたちが役に立つとは思っていなかった、しかしこれは計算外過ぎた、まさか狼に追われて自身たちの前に出てくるとは思わなかったのだ。ごろつきたちが捕まれば芋づる式で自身のこともバレてしまうかもしれない、そう思うと男は焦った。

そして思ってしまった。ララティーナを殺して、自身も逃げれば何とかなるかもしれないと。逃げ切れる保証もないのにこの場ではそれが最善だと思ってしまったのである。


男はララティーナを守るふりをして徐々にごろつきと戦っている護衛から離れていった。これ以上は怪しまれるそのギリギリまで離れた瞬間、ララティーナを切ろうと振りかぶった、そして自身の視界に入ったのは「白」だった。


考える前に動いていたララティーナを守るために、別に恩も何もない少女のために、仮に死んだところでレトの生活は変わりなく下級使用人として働き3年すればノノイに戻れる。


少しの好奇心と妙な正義感でここまで首を突っ込んだが、帰ったところで誰にとがめられるわけでもない。しかし、身体は動いていた。今まさにララティーナを切ろうとした男にとびかかっていた。殺される前に殺す。男ののど元に食らいついていた。


レトは男ともみ合いになり、蹴り飛ばされた。その少しの時間で十分だったようでごろつきたちと戦っていた護衛たちが戻ってきて、ララティーナを殺そうとした男を捕まえていた。


それを見届けたレトは素早くここから離れた、あまり屋敷から離れて逃亡したと思われても困るからである。



翌日、使用人たちに対してある周知がされた、獣人の使用人は全員屋敷の大広間に集まるようにと。


(もしかして昨日のことがバレたかな…… でも、証拠はないはずだし大丈夫だよね)


大広間へ行くとレト以外の使用人が十数人ほどいて、みんなの視線の先にはランドとララティーナがいた。全員が集まったのを確認するとランドが口を開く。


「昨日、ララティーナ様の馬車が襲われる事件があった、その際、白い狼が助けに入ったが何か知っているものは挙手をせよ」


(バレてる…… いや白い狼としか言ってないしバレてないはず)


「ふむ、誰も挙手なしか、わかったそれでは各自持ち場に戻りなさい」


(よかった。バレてない)


バレていないことに安堵してレトは気を抜いた、そう抜いてしまったのである。


「そこの白い狼に獣化するあなた、あなたは残りなさい」

「え゛!」


とっさに、安堵した心の隙間に入りこんだその言葉に反応してしまった。振り返った先にはララティーナがおり視線が合った。


(マズイ! 視線が合った!)


そそくさと大広間を後にしようとしたレトだったがその肩をつかむものがある。


「あなたは居残りよね?」


振り返った先にはララティーナが有無を言わさぬ笑顔でレトの肩をつかんでいた。

,

レトは養父に昔言われた商談は相手が最後の最後まで油断してはいけないという言葉を思い出すのだった。

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