第4話
ディンに呆れられてから少し経ち、昼食の時間になり、レトもお腹を空かせていた。
「ねえ、そろそろお昼にしないかい」
「ああ、ちょうどいい時間だしな」
「ここは男の子がかっこいいところ見せてくれるのかな?」
「はぁ、まあ、誘ったのは俺だし昼飯は俺が出すよ」
「その代わり場所は決めていいよ」
「そいつはどうも」
レトより街に来ている回数は多いであろうディンはスイスイと進むと一軒の食堂についた。
「ここなら値段も手ごろだし味もうまいからおすすめだな」
「じゃあ、ここにしようか」
レトたちが食堂に入ると丁度、昼食の時間のというのもあり混雑していた。
「何にしようか、ふだん食べられないもの食べたいなっと」
「俺が持つとは言ったけど、俺だって手持ち多くないんだからな」
「わかってるよ。ラムのシチューとパンのセットにしようかな、ディンは?」
「俺もそれにするは、すみません、注文お願いします。」
昼食を終えて、満足したレトたちが食堂を出ると、レトはあることを思い出した。
「あ、そうだ。このあたりで毛皮を売れるところってないかな?」
「毛皮? それなら職人街の方がいいか。案内してやるよ」
ディンに案内されて職人街に来ると、様々な職人が軒を連ねて店を開いている場所である。案内されたのは毛皮の加工をする店のようで今も壮年の男性が加工をしているところだった。
「ここだよ。前に毛皮の買取してたから、今もしてると思うぞ」
「わかった。ちょっと行ってみる。すみません」
壮年の男性はレトをじろりと見ると、すぐに視線を外し手元を見ながら話す。
「お嬢ちゃん何かようかい」
「毛皮を売りに来ました。リスの毛皮10枚」
レトが毛皮を出すと壮年の男性は一枚一枚確認して答える
「レドニル銅貨で8枚。いやなら他を当たりな」
「じゃあ、それでお願いします」
買取を終えるとレトはホクホク顔でディンのところまで戻ってきた。
「また、ルート商会の時みたいにするのかの思ったぜ」
「あの人は相場通りに買ってくれたからね。大口の買取ならもう少し粘ったけど」
「なあ、レトって商家の出なのか。金にがめついみたいだけど」
「お金に誠実って言ってほしいな。養父が行商をやっててね、それについてたら自然と覚えたんだよ。」
「なるほどなぁ。そういえば毛皮何ってどうやって手に入れたんだよ」
「ボクの秘密のお小遣い稼ぎだから内緒だよ。もうちょっと好感度が高くなったら教えてもいいかな」
その後も、ディンの案内で街を散策するとレトたちは日が落ちる前に帰路へとつくのであった。
その夜、離れに住む者が寝静まったころ、レトは起き出した。レトには以前いから気になっていたことがある。前に森で見つかりかけた時に、その時は焦って帰ったもののよく考えればあの時間に人がいることがおかしいのである。
湖のあった場所は森の外から距離があり、わざわざ自警団や公爵家の騎士が見回りに来るとは思えず、見回るにしてもあれほど遅い時間に来るのもおかしいと思ったのだ。
そこで好奇心が抑えられないのがレトである。もう一度森に行き、今度はどんな人間か確かめようと考えたのである。
(荷物は最低限、今日買った髪飾りも持ったし忘れ物はないね)
荷物を確認すると素早く離れを出ていつも通り森に入るレトだった。
湖につくと前回とは違い狼の姿のままで人が来るのを待つ。
しばらく待ち続け、やはり気にしすぎかと思ったところで数人の足音が耳に入った。
(人数は3人。この前とおなじだ。)
レトは距離を置きつつも3人の後を追うように移動する。
しばらく移動していた3人だったが公爵邸に近い森の外側で止まると明かりを取り出し一定の間隔で明滅させるのであった。
(止まった。ここは森の外側であっちが公爵邸か。あれは何か合図してるのかな?)
を伺っていると公爵邸の方からも光の明滅を確認した。
(あれは見張り用の高台からか? 何か合図してるみたいだけど意味は分からないな。あれを使ってみるか)
(宝石の質が低いからあまり遠くの音は拾えないけどこの距離なら聞こえるかな)
人の姿に戻ったレトは昼間、買い出しに出えた時に買っておいた緑色の宝石の付いた髪飾りと取り出す。そして精霊魔法の呪文を唱えだすと、宝石が淡く光だすと3人の会話が聞こえだしレトは耳を澄ます。
『ララティーナの外出は3日後みたいだ。お忍びだから護衛も最低限みたいだな』
『なら決行はその日だ、集められるだけ人数を集めておけ』
『うまくやったら俺たちは大金持ちってわけだ』
レトはしばらく放心状態となり3人が去ってゆくのを隠れてみているだけであった。
(マズイ、マズイマズイマズイ。絶対聞いたらマズイ内容だよ!)
盛大に混乱したレトはそのままその場でうずくまってしまった。
(ララティーナって公爵令嬢の? 襲撃計画? しかも屋敷に仲間がいるの?)
(相談する?誰に? どうやって? 夜に獣化して離れを抜け出して、精霊魔法で聞きましたっていう?)
(それを信じてくれる確証は? 下手するとボクも襲撃犯の一味扱いになるかもしれない)
全部聞かなかったことにして、帰って眠ればそれで済むだろう。仮に襲撃事件が起きたとしてレトの生活は変わりないし、首を突っ込んだところで剣の腕が立つわけでもなく魔法が得意なわけでもない。しかしレトはこれを聞いて無視できるほどの精神を持ち合わせていない。要するに善人なのである。
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