第3話
森での出来事から数日後、レトは今日も日の出とともに目を覚ますのであった。
「スティル、起きて朝だよ。今日は食事当番だから早く厨房行かないと」
「眠いぃ、あと少しぃ」
「ほら、起きないと!」
そういうと同時にスティルのシーツを無理やり剥ぎ取りスティルを地面に落とすレトである。スティルは朝、しっかり目が覚めるときと起きない時があるので先に起きた方がもう片方を起こすという約束をしているのだ。
厨房、離れに住んでいる下級使用人の食事を作っている場所である。母屋には、別に厨房とコック長がいて、公爵家や上級使用人の食事はそちらで作られている。
食事当番は厨房の手伝いや片づけが仕事なので、朝は忙しいのである。
厨房へ行くとすでにコックとコック見習いたちが朝食の準備をしており、戦場と化していた。下級使用人は人数が多く食事の時間も限られているので、母屋より手早さを求められていると噂である。
『おはようございます』
「はい、おはよう。まずは水汲んで来て、それが終わったら皮むきの手伝いよろしく。」
(水汲みか、重いんだよね、精霊魔法使えば楽だけど、使えるのバレると厄介そうだしあきらめるしかないかな)
言われたとおりに水くみを済ませると、野菜の皮むきである。
そこにはジャガイモ、ニンジン等多様な野菜があり、母屋で使う材料の一部の下処理もこちらでやっているため量が多い。
「こんだけ皮むいてるのに、ボクたちの食事にはでてこないよね」
「いや、ちゃんと使ってんだよ。出汁とったりしてるんだよ」
愚痴を吐きながら皮むきをしていたレトに答えたのは、隣で皮をむいていた、コック見習いの短い赤髪と碧眼が特徴のディンである。二人は年が近いことのもあり食事当番の時などは雑談をしながら作業をすることがある。
「出汁がわかる繊細な舌して無いからぶつ切りにして野菜ゴロゴロのスープとかにしてくれないかな。」
「取り終わった後の野菜は母屋の食事とかに使われているみたいだね。」
「そこの二人!口動かさないで手を動かせ!」
途中、怒られたが朝食の準備が終わると、朝の作業を終えた下級使用人が食事を取りに来る。配膳と並行しながら、食べ終わった食器の片付けもしないといけないので、休む暇もないのである。それが終わると、食事当番も朝食をとることができる。
「おい、レト、買い出しに付き合ってくれないか?」
朝食も終わり、片づけをしているとディンに呼び止められた。
「買い出し?行こうかな」
「じゃあ、片づけが終わったら使用人門の前に集合ってことで」
(森にはちょくちょく行ってたけど、街は久ぶりだね)
家人から用事を言いつけられたり、ある程度の裁量がある上級使用人と違い下級使用人は基本的に敷地の外に出ない、数少ない例外の一つが買い出しである。普段屋敷で使うものは、懇意の商会の御用聞きがきて注文するのだが、下級使用人の厨房で使うものや材料はコック見習いの勉強の一環として自分たちで街の商会まで行き注文をする。その際に荷物持ちの名目で下級使用人も帯同できるのである。
「なんか行く前から疲れてないか?」
「買い出しに行くって言ったら色んな人から買い物頼まれてね…ちょっと疲れた」
昼食より少し早い時間、使用人が使う通用門の前でディンと合流したレトは少々疲れていた、レトが買い出しに行くというのを聞きつけたほかの使用人たちから私物の買い物を頼まれたのである。必要なものは支給されるが、嗜好品の類は自身でどうにかするしかないため、誰かが街に行くときは大体頼まれるのである。
「さてと、羽を伸ばす前に用事だけ済ませておくか」
「ボクも先に頼まれた買い物ししようかな」
レトたちが訪れたのは公爵家の御用達でもあるルート商会である。国内外にいくつもの支店を持ち、ルート商会に用意できないものはないと豪語する商会である。
「レドモンド家の使いですが発注のお願いにきました」
「いつも御贔屓に。いつもの離れの発注かい」
「ええ、そうです。これが来月分です」
(ディンが用事済ませてる間にこっちもすませようかな)
レトは受付に行き、下級使用人たちから頼まれた買い物の一覧を出す。
「すいません。ここに書いてあるものが欲しいのですが、全部でいくらほどでしょうか?」
「こちらすべてですと、レドニル銀貨2枚と銅貨3枚ですね。」
(預かった金額で足りるけど、これではい、そうですかってのもつまらないかな)
「暖かい季節になって毛糸の需要は減ってますよね? 銀貨1枚と銅貨8枚」
「タバコの葉の収穫が悪く高騰しておりますので、銀貨2枚と銅貨2枚」
「オレンジは豊作で加工品も多く作られているとか、銀貨1枚と銅貨9枚」
「本日中にすべてご用意させていただきましょう。銀貨2枚でいかがですか?」
「では、それでよろしくお願いいたします。あとで受け取りに来るので料金はその時に」
レトが久々のやり取りに満足して店を出ると、頭を軽く小突かれる。
「お前、あまり変なことしてレドモンド公爵家に泥塗るなよ。」
「わかってるよ。向こうも使用人の嗜好品ってことで吹っ掛けてきてたからお相子だよ」
「てか、そんなことして差額はどうすんだよ」
「ボクの手間賃ってことで」
ディンは呆れた顔になると、先に歩いて行ってしまうのだった。
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