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少し長いです
一行が会場へ向かう中、空はだんだんと薄暗くなり街はすでにお祭りムードだ。露店が立ち並び、たくさんの人が集まって女神の祝日を楽しんでいた。楽しそうな子ども達の声、人々の笑顔が通り過ぎる中、フローラは瞬きも惜しむほどにクラウスの姿を目に焼き付けていた。
星降祭の儀式は学園のホールで行われる。選ばれた祈りの乙女は女神像に祈りを捧げ、大聖堂より運ばれた聖具に魔力を込める。その魔力の質が良ければ良いほど精霊達が喜び、たくさんの流星が降ると伝えられていた。
国王も参加するため大規模なパーティーとなっている。
「……失礼しますクラウス様、今日の段取りで少しお話があるのですが……今よろしいでしょうか?」
会場に入るやいなやフェアドがクラウスを呼び止め、隣にいるフローラへチラリと目線をやった。
「私のことなら構いません。始まるまで少し会場を見学しようと思います」
「……わかった……ではまた後で迎えに行くから待っていてほしい」
「!?」
フローラはクラウスの台詞の長さに驚いて頷くことしかできず、そのまま見送り「後で」という言葉を噛み締めた。
(クラウス様……今日はいつもと何か違う……罪悪感なんて感じなくてもいいのに……)
暗い気持ちが顔をのぞかせたが、すぐに「後で」の言葉がフローラの胸を躍らせた。クラウスが後でと言うのなら必ずそうなるように努力をする。例えその「後で」が実際には叶わなくても、クラウスが自分を思い出す時間は確実にくると思うと、フローラにとっては箱にとっておきたいくらいに嬉しい言葉だった。
(お兄様でも探そうかな!)
気分良く、会場をぐるりと見渡したフローラは改めて会場の美しい造りに感心した。部屋の奥側の面はガラス張りになっておりマティアスの美しい庭園が見える。ゲームの中で見た覚えのある場所に、思わず原作ファンの心が疼いた。ゆっくり見学しながらカインを探すことにしたフローラは、たくさんの人の中に消えていった。
一方フェアドに連れられひとけのない場所に来たクラウスは、今日の流れを一通り説明されていた。壇上に上がり、リナリーの隣で代表として挨拶をし、聖具の布を外す。わざわざ連れ出して説明するほどのことではなかったが、クラウスは父の前で失敗はできないと真剣に聞いていた。
「クラウス様、それで祈りの後なのですが……私の娘リナリーは婚約者がいません。社交界にもまだ馴染みがなく不慣れなもので本人も不安がっております……なので最初のダンスはリナリーをよく知るクラウス様にお願いできませんか」
「……私にはフローラがいる」
「いえ、深く考えずに……最初のダンスだけですので。国を代表される最も強い魔力をお持ちのクラウス様と、最も尊い力を持つリナリー。二人が最初に踊るのがこの伝統のある行事の始まりに相応しいのです。陛下もこの行事の成功を望んでおります。フローラ様も理解してくれるでしょう。それに……フローラ様の最初のダンスのお相手なら心配は必要なさそうです」
「なに?」
フェアドの目配せにクラウスは視線をやった。
クラウスが目にしたのは、遠目にもよく目立つ赤い髪をした、目印のように頭ひとつ出た長身のアッシュと笑顔で向き合うフローラ。二人の会話が聞こえる距離ではなかったが親しげな雰囲気だけは伝わった。
アッシュの手にはカーリタースの花が一輪握られていて、クラウスは思わず目を見開く。
「愛を誓う花ですか……美しい風習ですねぇ」
動揺して言葉を失うクラウスにフェアドは追い討ちをかける。
「クラウス様、これは国のためです。陛下の前で最善の選択をして行事を成功させ! 完璧である姿をお見せするべきです!」
「……国のため……」
クラウスのピアスの中の色がぐらりと大きく揺れた。
「陛下は常に国の発展に心を尽くしておられます。その息子であるクラウス様も賢明な判断を……国のことを思えば……」
クラウスの瞳は白い花から動かすことができなかった。フェアドは尤もらしい話を続けていたがクラウスの頭には最近覚えたばかりの古語の意味が頭を駆け巡っていた。
(……カーリタース――――最上級の愛……)
クラウスの視線に気づいたフェアドがにやりと笑う。
「……これは独り言ですが、アッシュ様が我が国の令嬢と結ばれたらこの上ないほどに国同士の仲が深まりますなぁ」
そしてもう一度国のためだと念押したフェアドのその奥で、白い花弁にフローラがゆっくりと手を伸ばした。
「さっクラウス様、間もなく陛下が到着します。挨拶に行きましょう」
「………………」
クラウスは拳を握りしめ、振り切るようにマントを翻し後ろを向いた。
クラウスの心をかき乱した罪深きカレーの原材料がアッシュの手の中で白く輝く。
「あ……! カーリタースですね!」
会場を見学していたフローラはアッシュに声をかけられ挨拶を交わした後、アッシュの手に握られた花に気がついた。
「! これは! アンナが無理矢理……!」
「ほんとにきれいですよね」
フローラが髪を耳にかけながらアッシュの手元の花に顔を近づけ、アッシュの心臓がドキリと大きな音を立てた。
「きれいなだけじゃなく美味しいなんて最高の花です!」
フローラが満面の笑顔で、花ごしにアッシュを見上げ、アッシュはたじろいだ。
「……っ! ……これやる!」
「え?」
「いや、その! これは本来の意味じゃなくて! お前が欲しいときには! カレーを食いたくなったらいつでもこの花をやるって意味だから!」
「フフっありがとうございます」
アッシュはどことなくそわそわと落ち着きのない様子だったがフローラが笑顔で花を受け取ると黙り込み、吸い込まれるようにじっとフローラの顔を見下ろした。
「……国に帰ったら正式に継承権を放棄しようと思う」
「え? 私への償いとしてならそんな……」
「いや、そうじゃない。元々そのつもりはなかったんだ。それでもそのままにしてたのは兄と並んだ気分になってただけってのがわかったから……あーほら、兄姉は皆優秀で、俺はいつまでも半人前扱いだから……国の事には関知されなくてさ。問題はいつも何も説明されず終わってから聞かされて……期待されてないんだよな。それがなんか悔しくて認められたくて……それでお前にも余計な事を……すまなかった……」
アッシュはそこまで言うと、急に心の内を見せたことに恥ずかしくなった。
「いやまぁ! 俺はこんな馬鹿だし! 元からそういうのは向いてないってのはわかってたんだけど! ハハハ」
アッシュは慌てて誤魔化そうとしたが、フローラは真剣な顔で頷いた。
「私にはアッシュ様のお兄様達のお気持ちがよくわかります」
「……え?」
「期待していないとかじゃなく……とにかくかわいくて仕方ないんですよ!」
「はぁっ!?」
「私にアッシュ様みたいな弟がいたら大人の汚いところとか国の面倒事なんてぜーんぶ私が引き受けて好きにやらせようって思いますもん!」
「なんだよそれ! 大きなお世話じゃねーか……」
フローラはアッシュという人間を考える。何かと人間の醜いところや悪意に晒される王族という立場にしてはあまりにも単純でお人好しだ。そして放置されたり疎まれていたらアッシュのような愛情深い真っ直ぐな人格になるはずはないとフローラは確信をもって再度深く頷いた。
「アッシュ様の仰る「こんな馬鹿」になるのには資質は勿論必要ですけど……とってもたくさんのお兄様達の愛情が必要だったんじゃないでしょうか? きっと伸び伸びと好きなことをして育ってほしかったんじゃ……」
「………………」
フローラは途中で偉そうなことを言って怒らせてしまったかと思い、無言になったアッシュを見上げると、アッシュは真剣な眼差しでフローラを見ていて二人は見つめ合う形になった。
「………………」
「あのさ、国を出るつもりなら…………」
「?」
「…………いや、なんでもない」
アッシュはフローラにさっき渡した花をもう一度自分の方に引き寄せると自分の魔力を込めてフローラの耳の側にそっと飾った。
「……俺は剣を極めるよ」
ポツリと呟くアッシュにフローラは笑顔で頷いた。
「ええ、とても素敵な騎士になると思います!」
「お嬢様、少々失礼いたします」
アルフレッドが突然二人の間に割って入ったかと思うとフローラの頭の花を抜き取り素早く一太刀いれた。
「きゃあ!?」「ちょっなに!!」
二人が驚いて声をあげたがアルフレッドは何事もなかったかのように剣をおさめた。
「申し訳ありません。頭に飾るには少々茎が長いと思いまして」
アルフレッドは花を拾い上げ、短くなった花の茎にフッと息を吹きかけてフローラの頭に戻す素振りをしたがすぐに手を止めた。
「お嬢様、こちら大変貴重な花ですのでやはり私がお預かりいたしましょう」
フローラとアッシュは呆気にとられて声も出ないが、アルフレッドは気にも止めずササッと花をハンカチに包んで懐にぎゅっと力強く収めた。
「お嬢様、使うときは私が魔力を流しますので。私が」
アルフレッドはお嬢様と呼びかけるわりに、身体が完全にアッシュの方へ向いているのでフローラは困惑した。貴重だと言いながら力いっぱい胸元に仕舞われた花が原型を保っているのかは考えたくもなかった。
「え、えぇ……ありがとう、あの、アッシュ様ごめんなさい。アルフレッドは……その……」
「あぁ、いいよ……説明しなくてもわかるって……お前の身内だろどうせ……はぁ……父親といい兄といいお前らの血筋はどうなってるんだ……俺一応偉い立場なんだけど」
アッシュは頭を抱えたが、クランベリーを幸せそうに手の平に広げたフローラが頭に浮かんで顔を上げた。
「はぁ……まぁ、花なんて今後いくらでもやるさ。お前が望むだけ」
「えぇ! 私達スパイス協定で固く結ばれてますものね!」
「だからなんだよそれ」
アッシュは呆れながら笑った。
そのとき、フローラの背後から弱々しい声が聞こえた。
「……あの……フローラ様、ちょっとよろしいですか……」
フローラが振り向くとそこには見覚えのある美しいブルーのドレスを着た儚げな表情のリナリーが佇んでいた。
「!」
フローラは呼吸が止まる思いだった。あの日見たドレスは当たり前だが誂えたようにリナリーにピッタリで、黒い気持ちが一気にザワザワと押し寄せる。フローラはやはり愛想笑いもできず真顔でいるのがやっとだった。
「お、おぅ……リナリー! もうすぐ儀式なのにこんな所にいていいのか!? 俺が案内するから行こう」
「まだ大丈夫です……あの、私……フローラ様にお話があるのですが……できれば……二人きりで……」
アッシュがリナリーを連れ出そうとしたが、弱々しい声と態度とは裏腹にリナリーは一歩も動かなかった。
「そうだフローラ! 俺達ほらあれだ! 協定の件で! 行かないと! 正式な文書にしておこう!」
アッシュはなんとか二人を引き離そうと下手な言い訳を並べたが、そのおかげで黒く染まりかけたフローラの気が緩んだ。
「……正式な文書って……フフ、あの協定をですか?」
「そっそう! だからすまんリナリー俺達はここで……」
アッシュはなんとかフローラを連れ出そうと思ったがフローラも動かなかった。
「では少し外でお話しましょうか。リナリー様」
「おい! フローラ……!」
フローラは引き留めるアッシュを見てニコリと笑う。
「アッシュ様……私は大丈夫です。以前のように問題は起こしませんから……アルフレッドもここで待っていてください」
呼び止めるアッシュにそう告げるとフローラはくるりと背を向けた。リナリーはアッシュにチラリと目線を向けて頭をペコリと下げてからその背を追った。
フローラは会場を出てひとけのない所まで行くと立ち止まった。誰かが通ってもちょうど花の見頃を迎えた薔薇のアーチはボリュームがあり、上手く死角を作ってくれるだろうと考えた。フローラは蕾のまま折れて垂れ下がった枝先が視線に止まりそれを手折ると、深呼吸をして薔薇の香りを吸い込み、意を決して振り返りリナリーと対峙した。
「あの……先日は……ありがとうございました……あれから無事ドレスを選ぶことができて……」
フローラはすぐに「別に大したことじゃないわ」だとか「あれからお母様の具合は大丈夫だった?」なんて言葉が浮かんだが、口を開く気にはなれなかった。フローラは目の前の愛らしいヒロインが自分の沈黙に気まずそうに視線を彷徨わせながら言葉を続ける姿をただ無感情に見つめる。照明の当たらない場所ではこんな落ち着いたブルーになるのかとリナリーのドレスを見ながらぼんやり思う。そうしているうちにリナリーのドレスの青に夜の影が落ち、フローラが好きな夜明けの青に染まって見えた。太陽が完全に沈んだようだ。
「……お話はそれだけかしら? そろそろ行きましょう。儀式が始まりますよ」
「待ってください! まだお話が……! フローラ様に伝えておきたいことがあって……!」
ドレスから目を背け、会場に戻ろうとしたフローラをリナリーが引き留めた。フローラはもう一度リナリーの方へ向くと、リナリーは掌をぎゅっと握りしめてフローラを真っ直ぐ見ていた。
「あの! 今日のことで……! その、フローラ様が複雑な気持ちになるだろうなって……でも私……決して大それたことを願ってるわけじゃなくて……ほんとに一度だけ……今日だけ……」
ふつふつと湧く怒りを抑えるためにフローラは唇を噛み締めた。恐らく周りから見ればどこまでも心の美しい健気なヒロイン。しかしフローラにとっては卑怯な宣戦布告としかとれず、今から貴女の婚約者を奪うので諦めてくださいとはっきりと言われた方がずっとましだと思った。
「あの、突然こんなことを言ったら戸惑うと思うのですが……説明が必要だと思って……気づいたのは最近なのですけど……初めて会った日から頭から離れ……ううん、今思えばお話を聞いたあの日から……」
フローラはぎょっとした。まさか自分にクラウスとの馴れ初めを語るつもりなのかと目を見開いた。
「聞きたくありません!」
つい声を荒らげてしまったフローラにリナリーがビクリと止まる。
「……ご、ごめんなさい……でも……フローラ様には先にお伝えした方がいいと思って……」
声を震わすリナリーにフローラは少し冷静になり、クラウスに揉め事は起こさないと宣言したのを思い出した。
「……大きな声を出してしまってごめんなさい。私が言いたいのは……私の了承なんて必要ないということです。本人同士の気持ちですので……説明はいりません」
「でも……!」
「……お好きにしてください。邪魔はしませんから……それだけはお約束します」
これ以上聞きたくないフローラはそれでも話を続けようとするリナリーを振り切るようにそう告げて後ろを向いた。
そのときちょうど、フローラを呼ぶ声がした。声の方へ顔を上げるとカインとアルフレッドがこちらに向かってくる姿があった。
「フローラ様……あの……」
「兄が呼んでいるので失礼します。貴女も急いだほうがよろしいですよ。主役、ですので……」
フローラは呼び止めるリナリーを置いて早足でカインの元へ向かった。
「お兄様!」
「フローラ、大丈夫かい?」
「生徒会のお仕事はいいのですか? どうしてここが?」
フローラはカインの顔を見ると緊張が緩んでカインの腕を取った。
「私は大丈夫だよ。もうすぐ始まるからやることはほとんどない。フローラ、話はなんだった?」
「……こないだのお礼と……今日のことで……」
フローラはカインの手を取って歩きながらさっきのリナリーとのやり取りを説明した。
「フローラはそれでいいのかい? フローラはまだ婚約者なんだから正式に抗議したっていいんだよ?」
「お嬢様、軽く燃やすこともできます」
「大切な行事に水を差すようなことをしたくありません。私はクラウス様に従います。フフ、燃やさないでアルフレッド、私は大丈夫よ」
カインはため息をつくと立ち止まった。いつの間にか会場前に戻ってきており、さっきまでぞろぞろと出入りしていた人の列は途絶えている。
「フローラ、本当に大丈夫かい? 別に会場に入らず私と外に居てもいいんだよ」
フローラはカインから目線を外し入り口を見上げた。確かに強制ではないのでわざわざクラウスとリナリーのファーストダンスを見なくてもいい。後で会場に戻っても誰も咎めないだろう。
今にも星がこぼれ落ちそうな美しい夜空が広がっている。どんなときもフローラを強くさせたクラウスを思わせる黒い夜空が見え、フローラはクラウスの「後で」という言葉を思い出した。
「…………知っていますかお兄様、クラウス様ってとってもダンスが下手だったんですよ」
フローラは小さなクラウスがカクカクと不自然な動きで踊る姿を思い出してクスッと笑った。
「毎日血が滲むほど練習して……やっと人並みに踊れるようになったんです……それを見続けた私が……今日の晴れ舞台を見ずに世界一のストーカーを名乗れると思いますか?」
フローラは笑顔でカインに向き直ると、紳士がエスコートを申し込むようにカインに手を差し出した。カインは思わず笑ってその手を取った。
「さぁ行きますよお兄様! お父様も着きましたよね?」
そう言いながらフローラは手に持っていた薔薇の蕾をカインの胸元に挿し込んで、足を一歩踏み出し立ち止まった。ベンハルトは国王と一緒に到着しているはずだ。
「お父様……大丈夫ですよね? ファーストダンスを見て怒り狂ったり……」
「まぁ……陛下の前だし……」
ベンハルトに陛下の前ということがどれだけの抑止力になるのかと、自信なさげにそう言ったカインだったがすぐに思い直した。
「……いや大丈夫、父上はいつだって私達しか見ていない」
フローラは頷いた。ベンハルトの基準はいつだってフローラがどうしたいかだ。それを二人ともよくわかっている。
「それにもし父上が暴走してもアルフレッドがいるから」
カインはそう付け加えたがフローラはそちらの方が心配になった。カインはまだ知らないが隣で「お任せください」と頷くアルフレッドは今朝この国の皇子を燃やし、先程は隣国の王子の前で祖国の貴重な花を切り捨てたばかりだ。
フローラは不安になったが、自分が毅然としてさえいれば大丈夫だとベンハルトを信じ、会場に入った。
会場に入ると、書類を片手にアッシュが近づいてきた。フローラはさっきまで何も持っていなかったのに不思議に思う。
「まさか本当に正式な文書に……?」
「なんでだよ! ……はい、コレ返す。この項目のチェックはやっといたから」
アッシュはフローラに否定しながらカインに書類を渡した。礼を言いながら受け取ったカインの手の中の書類をフローラが覗き込むと、アッシュから渡された紙の束は生徒会の書類のようだった。アッシュは生徒会には所属していない。
「……! アッシュ様! アッシュ様がお兄様を呼んでくださったのですね!」
アッシュはいや、まぁと曖昧な返事をしたがフローラはシンプルに嬉しかった。さっきリナリーとフローラを離そうとしたのはヒロインのためであると思ったが、この行動は純粋にフローラのためだとわかったからだ。しかも席を外すカインの代わりに生徒会の雑用もしていたようだ。
「フフ、文書にサインしましょうか?」
「さっきのは……! 早く忘れろ!」
「あのね、お兄様さっき……」
「おい! 言わなくていいだろ!」
三人が和やかに談笑する姿に周囲がザワついている中、いよいよ儀式が始まるようで、クラウスとリナリーが壇上に上がった。その後ろでフェアドが呟く。
「ほほぉ、仲がよろしいようで……やはり心配なさそうですな」
クラウスの目に自分の色ではないドレスを着たフローラが、自分ではない人に笑顔を向けている姿が映る。その隣ではカインが、試食会で向けた厳しい顔とはまったく違った柔らかい笑顔で二人を見ながら立っていた。
フローラがカインと合わせたドレスは奇しくもアッシュの瞳と同じ色で、クラウスの心臓は大きく波打つ。
クラウスのピアスの緑色が渦巻くように青に染まっていった。




