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フローラはそれから三日間も部屋に閉じ籠った。
前世でもほとんど恋愛経験のなかったフローラには、失恋の衝撃は大きかった。それには現在のフローラの性格にも原因がある。
フローラはめちゃくちゃ愛が重い女だった。
七歳でクラウスに一目惚れしてからというもの、毎日のように城へ押し掛けつきまとい、毎日のように手紙を綴り想いをぶつけ、クラウスに言い寄る女の子達を威嚇して回った。
クラウスは常に無表情だったが、フローラはそれを無言の肯定だといいように解釈して好き勝手にふるまっていた。
三日間好きなだけ泣いて落ち込んだら、さすがに気持ちも落ち着いてきて、冷静に自分を振り返ると、次は恥ずかしさで熱がぶり返しそうになってフローラはベッドで一人悶えていた。
「ないわーーーーもう、ぜったいない。恋愛経験ない三十路だった私でもわかる。こんな女嫌」
しかも学園に入学後は嫉妬でありとあらゆる手を使ってヒロインをイジメまくる。
フローラはどこに好かれる要素があるんだと頭を抱えた。
前世のみさきももちろん嫌いだった。画面にあの青い髪飾りが出てくるだけで憂鬱になった。
生まれ変わっても髪飾りを見ただけで前世がよみがえるほどに……
「クラウス様がどのルートでも私を選ばなかったのは当然だわ……」
フローラはもう泣くのをやめにしてこれからの身の振り方を考えることにしてノートを広げ要点をまとめていく。
フローラの誕生日にヒロインとすでに出会っていることからすでにクラウスルートに入っていると想定する。
フローラは自分の今までの行いからクラウスに好かれている可能性はほぼないと考えた。
胸がチリチリと痛んだが誕生日をすっぽかしてから三日間なんのフォローもないことからそれは明らかだった。
「三年後婚約破棄は決定……っと。あと問題なのは断罪イベントね……」
ゲームのフローラは婚約破棄とセットで断罪される。よくて単身国外追放。一家身分剥奪の上投獄。なんてのもあった。細かい描写はなかったがやったことから想像するに投獄の後は処刑だろう。
ゲームのベンハルトは娘を溺愛するあまりフローラの言うままに悪い人を雇ったりお金に物を言わせてヒロインの養子先の家を無実の罪で潰そうとしていた。
前世ではそんな父親いないだろ。と思いながらプレイしていたが今なら断言できる。父ならやりかねないとフローラは強く思った。
事実七歳の頃クラウスに一目惚れしたフローラのワガママで、婚約者の位置にフローラをねじ込ませたのは他ならぬベンハルトの力だった。
フローラは珍しい闇の加護持ちだったが魔力は大きくなく、本当ならクラウスのような強い力を持った人の婚約者には相応しくなかったはずだ。
さらには今までのフローラの振る舞いで眉をひそめる有力貴族達も多い。
その全員を今のところ黙らせているのは国王の信頼の厚いベンハルトの力だ。家での姿からはまったく想像できないがかなり仕事のできる有能な人物なのはフローラも安易に想像できた。
そんな父親に犯罪をさせるなんてどれだけ自分は愚かだったんだろうかと、まだ犯してもいない罪に後悔し身震いすると、これからはもっと親孝行してあげようとフローラは固く決心をした。




