7話目 見られている氷室(生身)。見る涼輝狐
ごめんなさい。難産すぎました。3日で上げられるところ倍の時間ががが><
シーン的な問題と「これ、面白くない病」が発病しまして(吐血)
氷室は見られている。常に見られている。いつでもどこでも涼輝狐に見られ続けている……
初めの頃はどこへでもついてきて見ていた……
どかっ、キャンと声を上げて出ていく。
「だからって……」
ある意味、『聖域』と言っていい場所は家の中には存在するのだ。誰にも邪魔されず静かで、自由で、救われる場所でなければならないのだ。
「トイレの時は出ていけー!!」
トイレのところまでついてきた涼輝狐を蹴飛ばしながら追い出すことも前にはあった。
……
「くすんくすん、氷室が怒ったぁ~」
面倒なことになった……なだめたりして、本当に面倒なことになった。
「いい加減に機嫌直してよ……」
涼輝狐がうるうるした目で見下ろしている。安全な場所が高いところにしているせいか、雨の日のじめじめとした感覚がある。雰囲気すら環境に影響ある系なのかもしれない。狐の怪異だし。狐の嫁入りの時は天気雨だし。
「アイスくれたら許す」
「許すもなにも……」
涼輝狐が悪い部分あるよねと続けたかったが、それを言えばもっと面倒なことになるのは自明の理と言えた。
「うぅ……」
ガチ泣きはやめてほしい。
「ええぃ、少し待て」
出かけようとして立ち上がると
「手作り……」
この無茶ぶりである……
そして氷室的にできないことではない。
「この娘は……生クリームあったっけ……?」
本当ぉに面倒だった……
涼輝狐はどうしてか、氷室の動きを追っている。小さな子を見るかのような雰囲気もあるが、何かを警戒してか、それとも何かあるのか――
聞いてみることにした。
「私を観察して面白い?」
「うん、とっても」
「……そう?」
頭の上から返事が返ってくる。今も頭をじーっと見ているらしい。振り返って見上げる。空中で寝転がりながらにんまりとしていた。にんまり笑みはまるで狐のようだ。いや、狐の怪異? なのだからそういう感想は間違いではないのだが。
「どんなところが面白いの?」
「わりといっぱい?」
いっぱいとは……意外な答えが返ってきた。氷室自身、そこまで面白い性格や仕草はしていない、と思うのだが……
「ちょっと上げてみて」
少し興味があったのでさらに聞いてみる。
「氷室は表情がないようであるところ、とか?」
「ふむふむ?」
顔に表情を出さないように、いや正確には心を動かさないようにしているのだが。表情が出ているらしい?
「服はわりと無頓着で白一色だから、その白い寝間着とか、どこから仕入れたの?」
「わりとあるから」
通販で買うことも増えた。ついついぽちっとするのもよくしている。店に行って買うのもだいぶ減ったが、小さいところは取り扱う店はあまりないのも確か。便利な世の中になったとは思うが現物を見て買うのも悪くはないのだ。
「格好といえば血がつくと目立つので一度怪我したら大変そう? 怪我しないでね? 危なっかしいから」
困った娘を見るように涼輝狐は言う。怪我するようなことはしていないので問題はない、はず。多分……
「あっ、苦笑いはするけど笑顔が下手。でもうまく文章紡いだりできるとニマニマしてたり、リンゴジュース飲む時はほっと幸せそう。苦戦中は独り言が多いし、表情も面白い。百面相って言うんだっけ? 人間は表情豊かよね?」
こう他人から指摘されるとむず痒い。そういう様子を見て楽しんでいる気もする。
「まだ若い狐はね? 氷室」
笑みを引っ込めて半分はめんどくさそうに、残り半分は大事なことを話すようにと言わんばかりの微妙な顔をする。
――氷室としてはその顔は嫌いな顔でもある。遠く感じるからかもしれない。人間と怪異にはそれだけの差がある。普段は感じさせない癖にこういう時だけ……
「人間の真似をすること、その真似が自然であること、それらは見てできるようになる必要があってね、何人かの真似はしてるんだけどわざとらしくて駄目なんですよ」
「そりゃ素の自分じゃなければ疲れもするし、面倒でしょうよ。余程なり切る要素が……あぁ、だから?」
「楽そうな人を真似るということは波長が合う人ということ、とも言う」
「……で、私の様子を見ている、ということね?」
そのうち、氷室の真似をし始める、ということだろうか? それはそれで面倒そうではある。
そういえばと思うこともある。
小説書く手伝いをしている時、涼輝狐の動きが氷室自身の動きに似ていると思う時があるのだ。言ってみれば氷室が二人いるような感じで仕事の効率で……
「……あとね、氷室は寝てる時は大変なの――」
突然の涼輝狐の爆弾発言に氷室の思考が止まる。
「へ?」
氷室のその思考の止まった顔ににんまりと笑みを浮かべている涼輝狐。こういうのを待っていたと言わんばかりのにんまり笑み。
――言い方を変えれば狩りしようとする直前のような錯覚を覚える。捕食者めいた目にも見える。
「物凄くよく動くので、とても心配……」
「ね、寝相、そんなに悪いの?」
普通の人間は自らの寝相を把握することはできない。生放送で寝落ちした人の放送を見たことがあるが、寝言やいびきをしていたとしても――
「夢遊病のように」
「夢遊病!?」
そこまで悪いというのか? 氷室はドン引きする。
「注意してよね? 連れ戻すの大変なんだから」
この様子では外に行ったりしているのか? 記憶にないのだからどうしようもない……
涼輝狐を見る。まだ微妙な顔をしている。これは嘘を言っているような顔ではない。涼輝狐が嘘を言うメリットは、こういう表情を見るという目的ならあるかもしれないが、こんな深刻な嘘を言うだろうか? まだ数週間の付き合いではあるが、嘘は言わない、と思う。
「マジで?」
「うん、マジで」
「ごめん!!」
素直に謝る。まさか夢遊病の行動を自分がするとは考えてもいなかった!!
「いえいえ。なった時には守ってあげよう」
「起こしてよ」
「起きない癖に」
寝起きは悪い。一度寝れば目覚ましが何度起こそうとも起きない。余程のことがないかぎり。
「だから多少は見るのは諦めて?」
「そういうことなら」
「トイレも見ていい?」
「殺すわ。私の持てるオカルト知識と狐対策の全てを使ってでも」
両手を広げて威嚇のポーズをする氷室。
「ふふふ、氷室のオカルト知識と狐対策などたかが……いや、ちょっとまって、さすがにご無体な……それは私の油揚げさん!! 氷室、いや氷室さん!? いや、冗談でもね、ねぇ、と、取引を……いやぁぁぁぁ無言でや、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ」
――今日も氷室の家は平和である……
「氷室が私の好物……食べたぁぁぁぁぁ私の油揚げさんぅぅぅぅぅ」
――平和、である……
できれば早いうちに8話目書きます。ごめんなさい><