4話目 食事について
一日遅刻したというオチ。勢いで書いてそのままスピード入稿なので誤字雑事があると思います。ごめんなさい。
大きなボールに解凍した牛ひき肉、にんじん、たまねぎのみじん切りを入れてこねこね。
「今日は朝から、何故に料理を?」
「作り貯めしとくの」
氷室は料理ができる。店の料理に比べると一歩劣るが、コンビニ並みの料理はできるとは思っている。小説を書いていると食事を作る暇をも犠牲にしなければならない。それなら何日かの食事を作っていればその問題は解決する。
今は小さなハンバーグを量産している。空気抜けさせて整形する。手の平サイズだが、氷室の手は大きくはないせいだから仕方がない。店で出てくるような大き目なハンバーグに比べれば当然小さくなる。だが、量はできる。手の平で整形したものを取っ手を着脱式のフライパンに並べてラップしてから一度冷蔵庫の中に放り込む。寝かせることで時間を確保する。
「作って冷まして冷凍すればいつでも食べられるからね」
こねる前に分けたひき肉と野菜を入れたものを炒め、トマトジュースを放り込む。こちらはミートソース。同時にパスタ麺を湯がき水切りをしてバジルを混ぜ込む。
こちらはミートソーススパゲティにできるようにしている。
「マカロニも湯がけば……あ、グラタンもいいかな?」
「何食分作る気?」
さすがに退屈したのか、漫画本を片手にこちらに来る。
「一週間分?」
量的に考えればそれ以上ともなるかもしれない。一人分ではないので問題はない。
「だったら忘れているものがあるよね?」
「……えーと、確か……」
「ヲイ……」
涼輝狐の声が低くなる。空気も重く冷たくなった気はするが、氷室は考えながら目を瞑っている。涼輝狐は不機嫌な目でこちらを見ている気がするが、氷室は無視する。
調理は知識――
「黙って、確か……」
包丁で両断し、ボールに入れておく。他のボールに酢と砂糖と醤油を入れようとして固まっている。指をくるくると回しながらカッと目を見開き
「大3大1小1!!」
酢を大さじ3、砂糖を大さじ大1、塩を小さじ1を投入して小指で軽く混ぜる。その小指をひと舐めして味確認した後、手を洗う。
――知識とレシピ通りに作ることが大事。
ボールに両断したものにお湯を入れて2分ぐらいで湯を捨てる。
「涼輝狐、唸るのをやめて手伝って。鍋出して」
「はぁ?」
明らかに不機嫌な声。
「いらないのならそう言いなさい。ご飯をその皿に載せてうちわ用意」
「!?」
大き目の皿にご飯が乗っている。できたてほかほかだとアピールするかのように。
「これを入れたら混ぜながら風で冷ます。さぁ」
指示して嫌々ながらやり始める。大事なことなのにという不平不満が出てくるが、氷室は無視する。
「私はこっちの鍋」
お湯を入れて湯引きをしたものを鍋の中に入れ、出汁、砂糖、醤油を入れて鍋を火にかけ最初は強火で沸騰する直前に落し蓋して弱にする。タイマーを12分ぐらいにセットする。笑みがこぼれるが、涼輝狐は不機嫌顔を向けている。
「米のは16分割。白ごまを少しまぶしといて。それはちょっと多すぎ」
「何を作っているのかいい加減に言ったら?」
不満の声を上げる。
「考えるな、感じろ。すぐにわかる。むしろ匂いで悟れ」
嗅覚は大事。こんなに美味しい匂いしてきているのに気づかないほうがどうかしている。もしくは知らないからこそ想像もつかないのかもしれない。
「俵状のおにぎりを作って。それじゃちょっと大きすぎる」
指示しながら洗い物をする。
しばらくは鍋は放置でいい。どちらにしても冷めるまで時間が必要。洗い物が終わる頃にはタイマーがなり火から下ろす。
「冷めるまで開けて見てはいけない」
「むぅぅぅぅぅぅ」
氷室は涼輝狐を見ない。まだわからないらしい。
冷蔵庫の中から取っ手のないフライパンを取り出し取っ手をつけて火にかける。トマトジュースを入れケチャップを投入して最初強火、沸騰する音をすると中火にして火が通るのを待つ。
「あー……」
じゃがいもの皮をむき始め、ブロック切りにする。耐熱の器に放り込み、水を入れラップしてからレンジに放り込む。
ミートソースの入った鍋も火から下ろし、こちらも自然に冷めるまで待つ。
「…フライパンもう一つ出して、りんご切って、ん~~~」
レシピを思い出しながらフライパンにバターを入れて溶かし、レンジで加熱したじゃがいもを取り出しフライパンに入れる。りんごも投入して塩胡椒した後再耐熱の深皿に入れる。とろけるチーズを上に載せ、オーブン焼きにする。
「……こっちは今日のおかずね」
「……」
無言で反応しない涼輝狐は黙々と俵状のおにぎりを作っている。律儀でいい娘だと思う。鍋からまだ暖かいそれを皿に取り出す。
「涼輝狐、目を瞑って口を開けなさい」
「?」
素直に目を瞑り口を開ける。氷室は箸で摘まみ軽くふーふーしてから涼輝狐の口に放り込む。口の中に広がる味と感触に不機嫌顔が見る見るうちに笑顔に変わっていく。喜び一色に染め上げていく。
「!? これっっ」
「何をするかはこれでわかったでしょ? さぁ、大人しく言う通りになさい」
「うん!!」
涼輝狐の口に入れたものは煮た油揚げ。もちろんお稲荷さんにする為のお揚げさん。涼輝狐が言った『忘れているもの』であり、氷室が『忘れずに作っているもの』である。
「もう少し冷ましたほうがいいけどまぁ……あ、つまみ食いは禁止」
「え゙?」
「数が減って泣くのは私ではない」
ぴしゃりと言うと大き目のタッパーにパスタ麺を詰め込み冷蔵庫の中に直し込む。日つけのついたリンゴジュースの瓶を取り出し、コップに注ぎ一気飲み。
揚げを煮たものに調理済みで洗ってあった小さな鯛を入れて火をつける。
「……お稲荷さんを作ります。手伝いなさい」
「了承」
こうして調理は一通り終わることとなる――
「お味噌汁と生野菜はその日ですればいいので。お稲荷さんは涼輝狐が食べればいいかな」
「氷室氷室。目を瞑って口を開けなさい」
さっきの氷室の真似する。素直に言う通りにすると
「んぁ?」
口の中に何かを押し込まれた。舌に感じるのはお稲荷さんだが、その一口は氷室には大きすぎる!!
「美味しい? ねぇ美味しい?」
目を白黒させながら涼輝狐を見る。加減を知らないらしい。いやこれは……
相当うれしかったのだろう。尻尾を力強く振っている。耳もぴくぴく動いている。
なにより満面の笑顔だ。
これは怒るに怒れない――
急いで食べなきゃいけないのに、喉に詰まる。
――うん
納得できる未来予想図。
これは普通に死ぬ――
この日作ったのは煮込みハンバーグ、ミートスパゲティにできる麺とミートソース、お稲荷さん、りんごとじゃがいものチーズ焼き、小さな鯛の煮魚。
晩御飯に食べたのはお味噌汁にご飯とお稲荷さんとチーズ焼きとサラダ――
味は――
満面な笑顔で食べる涼輝狐を見ればそれが答えだと思う氷室だった――
追記、リンゴジュースがなければ即死だった!!
読んで下さりありがとうございます><