2話目 涼輝狐から見た氷室さん
二話目できましたので書き書きです。
涼輝狐さんはできた娘ですがなんなんでしょう?
氷室さんは……なんなんでしょうこの子……
小説家氷室。それが彼女の職であり生き方だと涼輝狐は思う。
仕事中の彼女は黙々と仕事をするタイプではない。独り言を言いながら、ノッている時は歌いながら書き連ねていた。傍から見たら気持ち悪くも思うが彼女の声が独特なのか、悪い気は起きない。言霊の力といえばそうかもだけど。
……あってから三日間。彼女はただひたすらにノートパソコンに向かっていた。
そう、彼女は氷室は女性だった。白に近い銀の長髪で眼鏡をつけた、四捨五入的感覚でいえば『いい女』に見えなくもない。顔だけでいえば凛としている。体だけでいえば食いでのない。無駄な肉はついてなく痩せすぎている。
匂いや見た目からは純粋な日本人ではない。匂いといっても霊的なソレである。涼輝狐的にはいい匂いすぎて安心する。霊媒体質、というものかもしれないが何か違う。
人は体臭だけではなく魂、霊的にも香る。氷室は人に好まれそうな匂いと同じように霊に好まれる匂いをしている気がする。
「わからないところあった?」
パソコンの使い方を一通り教えてもらい、メモ帳を開いて読んで指摘する簡単なお仕事をしている。ただの手伝いなのだが。
半透明体なのに触れられるのか? と問われれば無論触れる。ゲームもできる。ゲームセンターでゲームもできる。
「……ここのメモ帳保存よろ」
「完了しました。あちらと統合します」
コピペぐらいはもうマスターした。コピペが何かはわからないが。
「了解。改行チェックもよろ」
「無問題」
やり方さえわかれば楽にできる。これが若さというもの。といっても涼輝狐として記憶があるのはここ数年間なのだが。50年周期で記憶が整理されるのではないか? とも考えている。
50年。氷室の話では狐は50年生きると美女に化けられるそうな。とするなら? 狐の頃の記憶は無くなっている。
「飲み物切れた」
ぼそりと呟く声。すぐに立ち上がり
「リンゴジュース持ってきます」
冷蔵庫へ向かう。リンゴジュースジャンキーだと思う。もしくはマッドと言っていい。事あるごとにリンゴジュースを飲む氷室は体液がリンゴジュース味なのかもしれない。
「日付古いものから」
彼女の趣味はリンゴジュースのブレンドである。希釈、濃縮したものを割合を決めてブレンドするというマッドな趣味をしている。
味に違いが出るらしいが、繊細な舌の持ち主でなければわからないのだろう。美味しいがどれも同じ味に感じる。
「……りょ~き~こ~~~~」
「まだ何も文句もいってませんヨ?」
何かを感じ取ったのか可愛くも怖そうな低温で低音な声を出す。聞く人が聞けば怖いと感じ取れるかもしれないが、声が可愛いので怖くない。
「悪意を感じた……リンゴジュースがどれも同じ味だと……」
ギクリとするが、うまく笑えている自信はない。
「……今度、教育させてあげましょう。リンゴジュースの素晴らしさとブレンドの知識を……で、リンゴジュースは?」
「ただいまー」
慌てて注いで持っていこうとするが
「止まれ。ゆっくりとでいい。走るな」
ゆっくりと、そしてはっきりと。ビシッと指を差しながら指摘する。そして一瞬何かを考えるそぶりを見せる。
しばらくキーボードをたたく音だけが響いていた――
「そうか……この視点が足りていない……どう見えたか、どう聞いたか、どう感じたか……そうか、そうだったんだ。生命とは神秘とは進化とはゲッ……」
「それ以上いけない!! 戻ってきてください」
宇宙の神秘まで理解に到達しそうな氷室を現実に戻す。わかるネタだと反応もしやすい。
狐ッ娘の世代には『必須必修事項』なものが存在する。最低限のツッコミ技術がなければならない。人との憑きあうには必要不可欠なものだ。
「……はっっ、残り時間」
「あと2日と3時間」
「3時間寝れ……却下。爆睡の可能性があるので、栄養剤ブレンドと胃薬。寝るのは52時間後……」
この人は無茶を平気な顔でする人だと気づくのにそう時間は必要なかった。
頭おかしいのだと気づくのはもっと時間がかかる。
寝食を忘れるという言葉があるが、彼女の場合、目的の為なら方法、手段問わないところもある。そういう風に自らを演じている節もあるが……
素の時と演じている時とが見え隠れするのだ。
「燃え尽きました。真っ白です……」
全て書き終わり、手直し、誤字チェックをした後、氷室はボクサーが口にするセリフを吐く。
「しっかりしてください。氷室さんは素で白いです」
白に近い銀の髪、白い肌、そして白い格好の彼女は白づくめの何かでしかない。ふらふらーと涼輝狐に抱き着く。
「寝るぅ~」
「お風呂入らないと」
「やーだーねーるー」
駄々っ子のように幼児化している。これが素、ではない。
こういうところ効果的に演じている気がする……
子どもか!!
「氷室さん、寝る前に確認です」
「え゛~まだあるのぉ?」
不満そうな声を上げる氷室にデスクトップパソコンのモニターのチェック事項を見ながら
「USBに原稿は入れましたよね?」
「いれたー」
「一番新しいのですよね?」
「あたらしいのー」
寝ぼけているのか。簡単な答えが返ってくる。
「寝た後はー?」
「スーパーお稲荷さんタイムぅ~」
大事なことをその口から言わせる。これ大事。
「よろしい。それでは寝て下さい」
「お姫様抱っこしてベットまで~」
「仕方がないですね……」
軽くお姫様抱っこしてベットへ連れて行く。ふと今ここで食べちゃえばいいのでは? と考えが浮かぶが、
(約束は大事なので見逃してあげましょう)
と寛大な心で寝かしつける。
せっかくなので同じベットで横になる。
「おやすみなさぁい。氷室さん、良い夢を」
こうして就寝することになる。
……編集者が来るまでの束の間の休息となるのだが、その未来をこの時二人は抜けていた……
読んで下さりありがとうございます。