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97 水の中

 ルキアスは水の中でパニックになって無茶苦茶に暴れた。すると運良く瓦礫から抜け出せて、水上へと顔を出すことが叶った。


「はあっ! はっ! はああっ! げほっ! げほほっ!」


 大きく息継ぎをし、その煽りで思い切り噎せたところで漸く一息吐く。そして周囲に視線を配る。

 ロマの姿が見当たらない。


「ロマさん!? ロマさん!?」


 返事は無い。


(まさか、まだ!?)


 波間から水の中に目を凝らすと、ロマが瓦礫に挟まれた右足を抜こうと藻掻いている様子が見えた。


「ロマさん!」


 だがどうする? ただ潜っただけでは息が詰まってルキアス自身がまたパニックになりかねない。ロマの息ももう保たないだろう。息継ぎが必要だ。何かで空気を運ばなければ。


(でも何を使えば……。鍋? いや、小さすぎる)


 真っ先に思い付いたのは鍋だ。逆さにして水の中に押し込めば空気を運べる。しかしルキアス一人分にも足りそうにない。ロマとの二人分を賄うのは到底無理だ。


(水を通さないもの……。水を通さないもの……。あれがあった!)


「『傘』!」


 雪の積もった道を足が濡れずに歩けたのだから水中も平気な筈だ。

 ルキアスは水上で自身を中心にできるだけ大きなお椀型に『傘』を張り、ゆっくり水に身体を沈めながら『傘』も水中に降ろす。傘に溜まった空気は期待通りに漏れない。これなら水中にあって呼吸可能だ。それにこの物理法則に反した魔法の『傘』なら浮力の影響を受けないので、水に沈めたからと余分な魔力を消費することもない。

 水中で『ランプ』を点す。その時ロマの口から大きな泡が立ち上った。ロマが力無く揺蕩いだす。


「ロマさん!」


 ルキアスは急いでロマの許まで『傘』を沈めると、その頭を抱き起こして『傘』の中に入れた。


「ロマさん!」

「がはっ! げはっ! ぐおがはっ!」


 ルキアスの言葉に反応したかのようにロマは息を吹き返した。


「ロマさん」

「お? ルキアスじゃないか。俺は生きてるのか? それともお前も死んだのか?」

「生きてるよ! ぼくもロマさんも!」

「んじゃ、俺は助かったのか?」

「いや、それはまだ」

「ん?」


 ロマは自分の足が瓦礫に挟まれたままだと漸く気付いた。


「まだ水の中なのか?」

「うん。この中の空気もいつまでもは保たないから急がないと」

「そう言われれば少し息苦しい気も……。いやしかしこの空気は一体? これってどうやってるんだ?」

「『傘』です」

「は!?」


 ロマは上に目を向けた。空気の層の上に水が見える。『傘』自体はほぼ透明なので、水が天蓋になっているかのようだ。


「『傘』って便利だったんだな……」


 ルキアスは話している間にもロマの足を挟んでいる瓦礫を確かめる。太い木の柱と鉄の柵だ。しかしその二つは他の瓦礫にがっちり挟み込まれていて動かせそうもない。それらの瓦礫を取り除こうにも『傘』に溜まった空気が尽きる方が先だろう。

 だから鉄の柵を『捏ね』て曲げる。鉄は未だじわじわとしか曲げられないが、銃作りで多用したお陰でまた少し早く曲げられるようになっている。瓦礫を取り除くよりは速い筈だ。だが急がなければならない。


「ルキアス?」


 ロマが鉄の柵に手を翳したままのルキアスを訝しむが、ルキアスには答える余裕が無い。


「ルキアス!?」


 返事が無いせいでルキアスに何か異変があったのではと、ロマが心配そうに問い掛けながらルキアスの肩を揺する。

 しかし今はそれをやって欲しくないルキアスだ。


「ちょっと待って!」

「お、おう……」


 ロマは訳が判らなかったが、ルキアスに異変があるのではないと知って口を閉じた。

 ルキアスが『捏ね』始めて十分余り。既にロマの息が上がり、絶え絶えだ。


「ルキアス。このままじゃ……お前までどうにか……なっちまう。お前だけでも……」


 荒い息を押して声に出すが、「逃げてくれ」と続けようとして息が続かなかった。

 しかしその時だ。


「ロマさん、右足を引いて!」

「おう?」


 ロマが右足を引く。


「抜けた!?」

「立って!」

「お、おう」


 ルキアスはロマを支えつつ、気分だけは光の速さで立ち上がって水上に顔を出す。そして息を思い切り吸い込んだ。

 水深は胸元にまで達していた。


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