88 設計変更
この日の生存術の講習はただひたすら走るだけだった。体力と持久力が無ければ生き残れないことを擬似的に体験させるのが主旨らしく、魔物代わりの鬼役がチャーラの鬼ごっこだ。鬼に捕まっても鬼を交替する訳でも休める訳でもなく、遠くに放り投げられてまた逃げなければならない。ルキアスにはチャーラが妙に楽しげだったのが印象に残った。
この講習のせいでルキアスは前日に続いてもうヘトヘトだ。今日も歩き回らなくて済むよう、既に作った部分の改善と木を削る作業だけと決めた。
改善するべきは蒸気の流れる部分。タンクから噴き出した蒸気が壁にぶつかって上へと向きを変える時、かなり勢いが弱まっているように見えた。もっとスムースに流れるようにしなければ弾丸の威力が落ちてしまう。
また、栓棒を支持している箱の穴から漏れる蒸気も多かった。蒸気が直接穴へと行かないよう、羽根を追加するべきだろう。
そんな訳でかなりの部分が作り直しになるが、一度形にした部分だけに比較的容易い。
蒸気タンクの噴出口の延長線上は都合三つの部屋に分かれているが、そのタンクから見て一番手前の蒸気が直接噴き出る部屋を浅く、狭くする。更には蒸気が斜め上に抜けるよう栓棒に羽根を付ける。羽根と言っても横から見れば蒸気が当たる辺が凹んだ弧を描いた三角形になる。蒸気が上へと流れる先は細い管にして、弧を描かせて装填棒の動く機関部に繋ぐ。
(うーん、この棒で蒸気が遮られそうだな……)
改めて見れば、装填棒が蒸気の流れを阻害するのは明らかだ。
しかし発射する前の弾丸は何らかの形で固定しなければならない。だから装填棒を弾丸が銃身の奥に戻って来ないためのつっかい棒として機能させようとしたのだ。
(あれ? もしかして、弾丸のくびれを利用すればいい?)
ルキアスはふと気付いた。
弾丸は球にスカートが付いたような形だ。スカートが球に付いている部分が必然的にくびれとなっている。銃身側に弾丸を押し込めば通せるがその自重だけでは引っ掛かって落ちない程度の出っ張りを設ければどうだろうか。多少前後に動く遊びは出来ても、発射できないようなことにはならないだろう。
(やってみよう!)
下準備として小さな木の板を銃身に入る大きさに削り、銃身の後端から少し奥に詰める。ここに鉄の欠片を置き、細い棒で押さえながら銃身に『捏ね』付ける。木片を抜き取って、『捏ね』付けた欠片が程よい出っ張りになるよう削ったら完成だ。木片を抜くのに多少手間取ったのはご愛敬だろう。
装填口の方は少し銃身側に移動させ、装填棒の栓になる部分は先端部に変える。
装填棒は短くなり、装填した弾丸の後の空間も狭くなった。取りも直さず必要な材料が減り、装填棒周りの故障の可能性が減り、弾丸の威力の減衰も少なくなる。やってみれば良いことづくめであった。




