57 ダンジョンタワー
ルキアスは前を行くザネクの背中を見て、ふと思う。
(もう直ぐお別れ……。早かったな……)
ザネクとの旅は適当に会話しながら歩いただけだった。事件なんて何も起きない。別に起きて欲しいとは思っていないが、峠を越える迄と比べればあまりに平穏すぎて冗談のようなものだった。
ザネクはその不躾さから一見すると家出少年のようにも見える。ところが、剣術道場の五男で腕試しでダンジョンに挑むと言う。途中で軽く手合わせしてみると、ルキアスはまったくザネクの動きに付いて行けなかった。ザネクに「さすがにそれじゃまずいんじゃねぇか?」と心配されるほどだ。ルキアス自身、剣を使わないことにして良かったと考えた。
そしてそんな道中、平穏だったがためにルキアスはザネクの為人を今一つ計りかねている。今後もザネクと組む意義が有るのか無いのか判然としない。それは逆も然りで、ザネクがこれ以上ルキアスと行動を共にする理由は無い筈だ。ルキアスはともかくザネクにルキアスと組むメリットが無い。恐らく探索者登録が別れる切っ掛けとして最適だろう。
(ザネクは義理に厚そうだからぼくから切り出した方がいいかな)
ザネクが嫌いではないルキアスとしてはザネクの負担にはなりたくなかった。
「やっと着いたぜ。建物が見えてからが遠かったな」
「そうだね」
ルキアスの声音には名残惜しさが混じった。もう少し長く歩くのも吝かではなかった。
ザネクは反応の悪いルキアスに怪訝な顔を向ける。しかしそれは僅かな時間のこと。探索者登録への期待の方が大きいらしい。
「早く入ろうぜ」
ザネクの声は弾んでいる。まだ日暮れ前。よほど早仕舞いでなければ受け付けているだろう時間だ。
ところが中に入った途端、ルキアスとザネクは気後れした。もっと探索者がわちゃわちゃと騒々しいくらいに居るくらいに考えていたら、人はそれなりに居ても整然とした雰囲気が漂っている。整然と並べられた長椅子に探索者とは思えない人達が静かに座っている。カウンターの向こうには訪問した人の対応をしている人、それとは関係無く働いている人が居る。
(えっと……、どこに行けば……)
「ご用件は何でございましょう?」
横から話し掛けられたルキアスは心臓が跳ねた。




