42 防具の考察
武器も必要だが防具も必要だ。ルキアスは「運び屋さん」の言葉を思い出した。
『その手に持った鉄は多少薄くてもいいから胸や腹を守る防具にした方がいい』
これを聞いた時は完全に聞き流していた。だが遭難した時、狼に襲われた時には生活魔法『傘』が意外に役立った。この時の『傘』は防具の代用品だ。これによってルキアスは防具の必要性を幾らかでも感じた。
だがルキアスは防具をまるで持っていない。準備段階で念頭に無かったためだ。
有り体に言えばダンジョンを甘く見ていた。
だがこれはルキアスばかりも責められない。ベクロテはダンジョンを擁するとあって国一番の都市であり、華やかで煌びやかな印象ばかりが際立っている。遠く離れれば離れるほどその華やかな印象だけが伝えられる。残酷な現実など誰も望まない。望まないから伝えられない。
ルキアスの故郷のタードでダンジョンについて語った「知り合いのおじさん」にしても、別にルキアスを誤魔化したのではない。単にそうとしか知らなかっただけだ。
結果としてルキアスは剣を振り回せば怪我もせずに魔物を狩れるくらいの認識をしてしまっていた。それが多少なりとも変化する切っ掛けとなったのが遭難後に狼に襲われた一件である。
(当てにするには頼りないけど、『傘』で賄う?)
ルキアスはこの期に及んでも装備を揃える意識が薄かった。
しかし判断力まで失ってはいない。暫く狼と戦う状況を想定して『傘』の使い方を考えた後、結論を出す。
(いや、咄嗟に出せるとは限らないんだから、やっぱり別の形で防がなきゃ。それってやっぱり防具だよね……)
「運び屋さん」に言われた通りに胸や腹を守る何かは必要として、その他はと考える。
(咄嗟に腕で頭を庇ってしまうことを考えれば、腕にも何か巻きたいかな。
腕に巻くなら、いっそ小さな盾を腕に固定するのもいいかも)
例えば狼の口より大きければ、狼に襲われても腕を囓られずに済む可能性がある。
だが盾の本体は木材で作るとしても、留め具までは難しい。鉄でなければ強度を保ってコンパクトにはできない。
そうなると鉄が必要になる。だが……。
(あー、これじゃ鉄屑が全然足りない。
鉄屑をどこかで拾わないと。
先に進むより、ゴミ捨て場ででも鉄屑を集める方が先だな)




