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37 雪

 ルキアスがメイナーダ宅を辞したその日の夕方から突然のように雪が降り始め、夜更けに吹雪に変わった。

 風の音と寒さで目が覚めたルキアスは外の様子を確かめる。


「ヤバいな……」


 吹雪は強くなりこそすれ収まる気配が見られない。このままではテントが飛ばされかねない。

 いつもは外に広がるままにしているテント布をテントの骨組みに巻き付けるように内側に入れ、ルキアス自身がテントの重りになるよう骨組みの棒に板を渡して座る。

 そしてテントの中を『加熱』で暖める。


「急に冷えたもんなぁ」


 急に冷え込んだのは昼過ぎからだった。少し急ぎ足で歩き、次のこの町に着いて直ぐに場所を探してテントを置いたのだ。

 それはそれとして、今夜もまた熟睡できる状況では無くなったのである。





 どうにかテントが飛ばされることも無く、朝には雪も上がって晴れ間が広がった。が、一面の雪景色。できることなら今日はここでじっとしていたいルキアスだ。

 ところがそうも行かない。『加熱』で暖を取ったこともあって、テントの周りはびちゃびちゃに濡れている。雪が邪魔して融けた水が流れて行かない。これでは寝ようにも寝られる状態ではなく、下手に休むと却って疲れてしまう。

 だからどうせ疲れるなら少しでも先に進んだ方が良いと、ルキアスは出発を選択した。次の町までは五、六時間と言ったところと聞いており、天気は良いので雪が残っていても危険ってほどにはならない筈だ。

 そうしてメイナーダに貰ったパンを食べてから出発。だが……。


「足下ぐっちゃぐっちゃ。足冷た」


 足が(かじか)んで、感覚無くなって来ている。氷水に足を突っ込んでるようなものだからだ。

 これはかなりいけないと、何か足場になるものが無いかと考える。


(あ、遭難した時に『傘』が物を弾いていたような。

 物は試しでやってみよう)


「『傘』」


 取り敢えず足下に下を向けて展開した。乗ってみる。


「おおー。乗れた」


 ゆっくり乗る分には貫通せずに水を弾いてくれている。傘か深皿のような形で展開すれば浸水もしない。

 だがこのままでは動けない。

 そこで『傘』を前に伸ばし、次に一歩踏み出し、それから後を縮める。

 これはルキアスの目論見通りの結果となった。


「行ける。行ける」


 かなりゆっくりでしか歩けないが、これを繰り返せば濡れずに進める。ルキアスは少なくとも足の感覚が戻るまでと決めて歩みを進めた。

 だがその先に在った下り坂に差し掛かった途端、ルキアスの足下がずるっと滑った。『傘』ごと滑ったのだ。


(まただよ! また滑った!)


 遭難した時も足を滑らせたのが切っ掛けだ。そのせいで「また」の印象が強い。


「おっ、おっ、おっ」


 少しずつスピードが上がる。


「いや、ちょっと待って! ちょっと待って!」


 最早如何ともし難いスピード。ここで『傘』を消すのも怖い。飛び降りるのも怖い。致命傷になりそうで怖いのだ。


「うわあああーっ! あーっ! あーっ。あー。あ……」


(うはあ、はあ、はあ、はあ……。びっくりした)


 下り切った所でどうにか止まった。ここが真っ直ぐな道でルキアスは助かった。

 次は緩い上り坂だ。慎重に、慎重にとルキアスは歩みを進めるが……。

 またずるっと足を滑らせ、顔面から融け掛けた雪に突っ込んだ。


(冷た……)


「あ、うん、やっぱり普通に歩こう」


 身体前半分がびしょ濡れになったルキアスは、足が悴むのを我慢して歩くことにした。


(早く服を『加熱』で乾かさないと)


 風邪を引きそうであった。


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