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30 猟師

 闇の中に『ランプ』の光が揺れるのが見え、程なくして銃を持った老人がルキアスの前に現れた。顔の皺が歳を感じさせる一方、体付きはがっしりしていて若々しさすら感じさせる。見るからにベテランの猟師だ。


「やけに狼が騒がしいから様子を見に来てみりゃ『ランプ』らしい光がチラチラしてるからびっくりしたさ。どしてこんなとこ、こんな時間に居なさるね?」

「街道が土砂崩れで埋まってたから、山を登って越えようとして、途中で足を滑らせてしまって……」

「そんで道に迷いなすったか?」

「はい」

「何とも命知らずな事をしなすったもんだね」

「その……ごめんなさい」


 ルキアスは今後こんな博打みたいな真似はしないと心に誓った。


「わしに謝ってもしょうがねぇべ。それより立てるかい?」

「あ、はい」


 ルキアスは尻餅を搗いて座り込んだままだった。危機が去ったことで脱力し、立つのを忘れていたのだ。慌てて立ち上がって頭を下げる。


「ありがとうございました。お陰で助かりました」

「ええってことよ。食われる前で良かったで。まあ、歩けるなら付いて来んしゃい」

「はい」


 ルキアスは老人の跡を追った。





 三〇分と掛からず、ルキアスは林の中にぽつんと建っている小屋に着いた。

 老人は猟師で、ここで生活している。


「ここに一晩泊まればいいでな」

「ありがとうございます」


 ルキアスは招かれるまま小屋に入る。小屋の中には独特の生臭さが漂っていた。

 小屋は入口から入って直ぐに居間が在り、居間の真ん中にはレンガで囲われた囲炉裏が設えられている。奥に在るのは老人の寝室。入口から入って左側にも別の部屋が在る。


「左の部屋は作業場だで、見ても気持ちのいいもんじゃないからね」

「え……」


 老人の言葉で逆にちらっと向けてしまったルキアスの目に映ったのは吊された猪だ。独特の臭いの原因でもある。確かに気持ちの良いものではなかった。


「そこ座りんしゃい」

「はい」


 ルキアスは言われるまま、囲炉裏の傍に座る。老人は囲炉裏の反対側に座った。


「お前さんは山を越えてどこに行こうとしてなすった?」

「取り敢えずはグライオルです」

「取り敢えずってぇと、もしかしてベクロテまで行きなさるね?」

「はい……」

「そんな感じやもんね」


(どうやらベクロテに行く人には何か特徴が有るらしい)


 ルキアスはそう察するが、それ以上は判らない。当事者であり、自らと同じ理由でベクロテに行った人を他に知らないため、どんな特徴かを知りようがないのだ。

 ルキアスが詮無い考えに耽る向かい側、老人は徐に『収納』から木片を取り出して並べ、生活魔法『着火』で火を点ける。続けて何かの肉を取り出して、串に刺して火の傍に立てた。『加熱』で焼かずに火で焼くのだ。


「肉焼いてあげるから、食べんしゃい」


 肉の焼ける匂いが漂い始めた途端、ルキアスの腹が鳴った。ルキアス自身が忘れていただけで空腹だったのだ。

 ルキアスは厚意に甘えることにした。


「ご馳走になります。でも火で焼くんですね……」

「中で火を焚いた煙が虫除けにもなるからね」

「そうなんですね……」


 上を見上げれば立ち上った煙が天井に漂っている。虫も煙たいことだろう。


「明日グライオルまで連れてってあげるから。コートラの方が近いけんど、戻ってもしょうがなかろうし」

「何から何まですいません」


 ルキアスにはコートラがどこの町かは判らない。だが、行こうとしているのはグライオルの方だから判らなくても不都合は無い。

 そして老人はそれ以上多くを語らなかった。語ったのは明日の事についてを幾つかだけだ。

 ルキアスの方もそんな老人の振る舞いに促されるかのように、肉をご馳走になった後は早々に毛布にくるまった。


(今日は本当に肝が冷えた。

 旅立つ前はぼく独りで何でもできるくらいに思っていたのに、ぼく独りだったら今頃はもう生きていない。

 たった五日でこれだ)


 ルキアスは自らの不甲斐なさと、自らの考えが如何に甘かったかを思う。すると心の奥が酷く痛んだ。





 翌朝早く、ルキアスは老人に連れられ、獣道のような道をひたすら歩く。

 ルキアスが前の町で中年男に聞いた「地元民しか知らないような道」の一つである。馬車が通れるような道ではないため、あの中年男達には無縁な道だ。

 山を抜ければ遠くに町が見えた。


「ほれ、あそこに見えるのがグライオルだ」

「本当にありがとうございました」


 ルキアスは老人に深く頭を下げた。


「そんじゃ達者での」

「お爺さんもお元気で」


 そしてルキアスは昼過ぎにグライオルへと到着した。


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