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25 土砂崩れ

 結論から言えば、五時間では峠を越えられなかった。いや、一つは越えたが、もう一つ在った。五時間歩いた先に在ったのは、峠と峠に挟まれた盆地に在る小さな町だ。もっと南に山々が立ち塞がっている。

 ルキアスの口からは溜め息が出た。

 ただ奇妙なことに、広場には旅の途中らしい馬車がやたらと停まり、騒然とした雰囲気が漂っている。

 ルキアスの目に付いたのは、時折南の方に目をやりながら四人で顔を突き合わせて何か話している中年男と青年男だ。土砂崩れだのと不穏な単語も飛び交っていて見過ごせない。


「すいません。何かあったのでしょうか?」

「ん? 何だ? 兄ちゃん、もしかしてこの町に着いたばかりか?」

「そうです」

「で、グライオルの方に行こうとしてる?」

「はい」


(あれ? どうして判るの?)


「何、不思議そうにしてるんだ? どっちに行くか判るのが不思議か? 実は今、グライオルに抜ける街道で土砂崩れが起きてて通れないんだ。何が起きたか尋ねてる時点で決まってる。まあ、昨日の大雨のせいだな」

「何ですと!?」

「おー、いい驚きっぷりだ」


 男達はにやけながら頷いた。

 これにはルキアスも遊ばれた気分になる。


(ぼくで遊ばないで欲しい……)


「おじさん達は馬車ですよね? 徒歩ならどうにかなりませんか?」

「無理じゃないかなぁ。なあ」


 ルキアスに返事をしていた男は隣の男に同意を求めた。


「そうだな。完全に埋まってたからな」

「復旧するまで徒歩でも通り抜けるのは止めといた方がいいと思うぞ」

「復旧っていつ頃でしょう?」

「さあな。バスも通ってる幹線の街道だから早めにするとは思うが、一週間? 二週間?」

「下手すると一ヶ月だな」

「一ヶ月!?」


(そんなに待ってられない)


「迂回はできないんですか?」

「それさなぁ。一旦南から峠を抜けて、ずっと東に行ったらグライオルよりもっと向こうのノームに抜ける道はあるんだが……」

「こっちが普通に通れればノームには一週間くらいで着くのに、ここからそっちに迂回したら二週間以上掛かる」

「おまけにそっちもやっぱり峠越えと来たもんだ」

「峠越えってことは……」

「お、兄ちゃん察したか? 実はそっちにも土砂崩れを起こしそうな場所が在ってな、回ってみたものの通れませんでしたじゃ目も当てられないなって話してたところなんだよ」

「他の迂回路は?」

「他なぁ。ずっと西に行けば山そのものを迂回できるが、パルドスやベクロテまで一ヶ月以上掛かるんだよな」

「そっちは一ヶ月以上ですか……」


(おじさんの言う日数はきっと馬車での日数だから、徒歩のぼくは少なくとも二割り増しくらいに受け取るべきだ。

 だからそれぞれ三週間と一ヶ月半くらい……。

 東に迂回して問題無く通れるなら、二〇日で行けそうだったベクロテに元の予定通りの一ヶ月で行き着くことになる。

 西に迂回すればベクロテに着いてから一〇日くらいで手持ちの食料や現金が尽きることになる)


「東の方の道が通れるか、知ることはできないんですか?」

「多分もうこの町から様子を見に行ってるだろうから、行って帰って来る一週間後くらいには判るだろうな」

「もっと他の迂回路は無いんですか?」

「地元民しか知らないような道は在るだろうが、余所者がのこのこ行っても道に迷うだけだろう」

「そうですか……」


 どうあっても賭にしかならない状況であった。待っても迂回しても時間が掛かる。だがルキアスはあまり時間を掛けていられない。

 とは言え、どう動くか決めるには決定的な情報が足りない。現場の様子だ。


「ありがとうございました。現場を見てからどうするか決めます」


(早速行ってみよう)


「待て、待て! どこに行くつもりだ?」


 このまま現場に行こうとしたルキアスだったが、中年男に呼び止められた。


「いえ、今から現場を見に行こうかと……」

「今から? 正気か?」

「正気ですけど……」

「いやいや、今からじゃどうしたって夜になる。死にに行くようなもんだ。せめて明日にしろ」

「え? そんなに遠いんですか? でも通れそうなら通って向こうの町まで行けば大丈夫なんじゃ……」

「おいおい、次の町ってグライオルだぞ? この先はグライオルの近くまでずっと山道で、間に町なんて無い。土砂崩れが無くたって歩けば十二時間くらい掛かる道だ。そんな場所に今から行くって?」


(マジ?)


「……すいません。明日にします」

「そうしろ。あー、びっくりしたー」


 中年男は文字通りに胸を撫で下ろした。


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