24 山
ルキアスが気付いた時にはもう朝だった。椅子に座ってうつらうつらと仮眠を取る程度の時間に終始した結果、少々疲れが残り、身体も少し強ばっている。
雨音は聞こえない。ルキアスは確かめるために外の様子を窺った。
空の様子から、雨が上がったのは未明だと判る。千切れた雲が凄い勢いで流れ、晴れ間の空は抜けるような蒼に輝いている。
町の方に目を向ければ、既にかなりの人通り。ルキアスの目の前を通る街道にも馬車が行き、水溜まりで水を撥ねている。
(目の前に水溜まりが無くて良かった)
ルキアスは外に出て伸びをした。
「んんーっ! はあ……」
昨日の雨のせいか、空気がひんやりとして澄んでいる。それは心地好いものの、ルキアスの少し重く感じる身体を軽くするには至らない。昨夜のとは別に少し疲れが溜まっているのかも知れないとルキアスは考えた。タードを発ってからまだ四日でしかないのに感じる疲れ。旅を続けるにあたっては好ましくはないだろう。
(あー、でも、少し焦っていたのかも)
ルキアスは自らを振り返ってそう感じた。そこで手持ちの地図を見直すことにした。
地図は大雑把な手書きで、比較的大きな町までの距離感くらいしか判らないため、『収納』に仕舞いっぱなしにしていた。しかし日数を計る目安にはなる筈だ。
地図を開いてタードから辿る。
「あ、トリムまでで六分の一くらいだったんだ……」
ここまで地図を確かめなかったためにルキアスは気付いていなかったが、トリムまでで道程のおよそ六分の一。現在地はそれからもう少し進んでいるため、今のペースを持続するなら三〇日掛からずにベクロテに着く勘定となる。概ね二〇日だ。予定の三〇日より大幅に早いため、もっとゆっくりなペースに落とすことも可能だ。
「やっぱり焦りすぎてたな」
(少しのんびり行こう)
ルキアスは今日、この町から歩いて五時間掛かると言われる町までの予定とした。
そうと決まれば出発の準備。先にテントを片付ける。できれば出発前に乾かしたいルキアスではあったが、地面がびしょ濡れでは地面に広げて乾かすことは叶わない。地面が乾いてから改めて乾かすこととした。
朝食より先にしたのは、後で片付けるのは甚だ億劫そうだと感じたことによる。ルキアスとて地面が直ぐに乾くようであれば朝食を摂る間にもテントが乾く期待をしたところだが、今現在の状態では叶わない。
濡れた布地は酷く重くて『収納』に入れるのも一苦労である。
「とにかく朝食だ」
続けて朝食の仕度。ルキアスは具無しのパンケーキを選択した。
具無しのパンケーキの味気なさは馬鈴薯の比でないが、小麦粉は馬鈴薯より手間が掛かる。こうして腰を落ち着ける気になった時でなければ扱いにくい。だからこの機会に使うのである。
そして食べ終わって早々に出発。ベクロテに向けて南へ。
ところが眼前には昨日は雨に煙って見えなかった山が連なっていた。
今朝、テントから出た後はずっと見えてた筈にも拘わらず、ルキアスはまるで意識していなかったのだ。あたかも考えないようにしていたように。
「あれを越えるの? それとも道を間違えた?」
しかし現実は無情。まだまだ上り掛けの太陽は左に在る。山が鎮座しているのはやはり南だ。
(道を間違えたならとんでもない場所だけど……。
考えてもしょうがない。
誰かに尋ねよう。
っと、あのおばさんなら知ってるかな?)
ルキアスは通り掛かった婦人に尋ねた。
「すいません。ベクロテ……、と言うかグライオルはあの山の向こうで合ってますか?」
グライオルは目印にしている大きな町の一つだ。
「グライオルならそうだね。峠を越えなきゃならないよ」
(マジか……)
「ありがとうございます」
ルキアスは礼を言って直ぐに婦人から離れた。予想通りの峠越えに表情が歪む。
(いやでも五時間で越えられる峠だからきっと大したものじゃないさ)
何よりルキアスには進む以外の選択肢が無い。
出発だ。




