2 収納魔法
ルキアスの故郷の町タードから当面の目的地の町ベクロテまでは歩いて概ね一ヶ月。乗り合いバスなら二日で着く。
ルキアスはそこを徒歩で行く。乗り合いバスの運賃は、現金を持たないから、収入を得る目途が立たないから旅立ったルキアスに支払える金額ではなく、バスには乗りたくても乗れない。
ルキアスの手持ちの現金は一万ダールのみであった。
一万ダールは三食安物のパンで済ませるなら一ヶ月分の食費になる。だけど食堂なんかに通ったら一週間分にしかならない。当然ながらこれは宿に泊まることを考えない場合で、宿屋に泊まるなら安宿でも二日が限度となる。
これをルキアス自身は噂でしか聞いたことが無いために確証を得ていないが、そう間違っていないと考え、目安にしている。
それ故にベクロテに着くまで野宿をする。いや、ベクロテに着いても野宿になる。
「『収納』が大きくて良かった……」
ルキアスはこの先の野宿を思って独りごちた。
野宿と判っていてもルキアスが暢気にできているのは生活魔法の一つ『収納』のお陰だ。ルキアスはその容量が人並みよりも大きく、旅に必要な物を一通り持っていながら手ぶらで歩ける。大荷物を抱えて長い道を歩くのはこれ自体が困難なため、長時間歩かなければならない中にあって手ぶらで歩けるのは大きなアドバンテージとなっている。
(まあ、食べ物を腐らせないようにはしないとだけど)
だが、そんな『収納』も特別ではない。生活魔法だけあって誰もが持っている。多くは自分の身体がすっぽり入る箱くらいの容量で、俗に棺桶サイズとも言われる。しかしそれはあくまでその大きさの人が多いだけであり、小さければリュック一つ分ほどしか無い。ルキアスの場合はその逆で少し大きく、小さな荷車一台分くらいの容量がある。
ルキアスの父の場合は更に上を行く。
『毎日野菜や何かを限界まで詰めて運んでいたら大きくなったんだ。筋肉と一緒で鍛えれば強くなるんだぞ』
そう言って笑う父親の姿はルキアスの思い出である。
(きっとぼくのも父さんを手伝っている間に大きくなったんだろう)
ルキアス自身、どうして容量が増えたのか知る由もない。しかし誰でも鍛えれば大きくなるものでもないとも聞いていて、この点の自らの運の良さを喜んでいる。
そしてその『収納』には着替えなどの身の回りの物、ペンとインク、ナイフ、麦わらで編んだ縄が十歩分、片手鍋が一つ、フライパンが一つ、小鉢が一つ、カップが一つ、フォークとスプーンが一本ずつ、箸が一膳、まな板、包丁、塩、小麦粉が十五日分、馬鈴薯が十五日分、玉葱や豆が少し、テント、鉄屑などが入れられている。
(テントで雨風を凌いで小麦粉や芋で食い繋げば、真っ直ぐベクロテまで行ける筈だ)