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11 『天職無し』の墓場

 夕食を終えて片付けを終えたルキアスは今夜も鉄屑を取り出して捏ねる。少しくらい話をしながらでも捏ねることはできると踏んでのことだ。

 ところがおじさんの方はその鉄屑を気にした。


「それって鉄か? 使ってるのは『捏ね』だろ? それでそれを変形させるとは大したもんだ」

「それほどでも……」


 褒められて照れるルキアスである。


「で、その鉄は何に使うんだ?」

「これですか? 剣を作ろうと思って」


 おじさんが天を仰いだ。


「剣? 剣かー。剣格好いいよな。大昔の英雄譚の英雄はみんな持ってるもんな。使いたいよな」


 ルキアスは頷いた。そして暢気に考える。おじさんの顔に苦みが混じるのを気付かないまま。


(そうそう、使いたい。

 あ、それにあれだ。おじさんの言葉でぼくが漠然と剣に決めていた理由が言葉になった気がする)


 そしてルキアスのそんな思いを薄々感じたかのように、おじさんは難しい顔でルキアスを見た。


「兄ちゃん。兄ちゃんはベクロテ、ダンジョンに行くつもりだろ?」

「え……」


(どうして判った!?)


 ルキアスは喫驚した。声には出さなかったものの、表情には如実に表れる。

 おじさんが苦笑するほどの判りやすさだ。


「そう驚きなさんな。どうして判ったかなんて考えてるだろ? そんなのは簡単さ。兄ちゃんくらいの歳の奴がベクロテに続く道で野宿してるんじゃ、行き先なんて決まってる」

「そう……ですか……」


(そんなに判りやすかっただなんて……)


 ルキアスは内心で頭を抱えたが、だからと他に行く宛がある訳でもない。しょうがないと諦めるしかないのだ。


「そんで兄ちゃん、ダンジョンが『天職無し』の墓場だって聞いたことがあるか?」

「はい。死ぬまでそこで暮らす人が多いからって聞きました」

「死ぬまでか……。確かにそれは間違っちゃいない。だがな、それは真実でもない。本当の意味は比喩でも何でもない。『天職無し』が簡単に死ぬからさ。最初の一ヶ月だけで半分、その半分が最初の一週間で死ぬ」

「嘘だ!」


 反射的だった。

 このおじさんの信じるなら、タードの知り合いのおじさんがいい加減な事を言ったことになる。どっちを信じるかなら、このおじさんより前からの知り合いのおじさんを信じたいルキアスだ。

 だけどこのおじさんは容赦が無かった。


「嘘なもんか。特に死にやすいのが、碌すっぽ振ったことの無い剣を振り回して気が大きくなっている奴だ」


 それってぼくのこと!? 確かに剣の練習はそんなにしてないけど……。


「でも、剣は強いですよね?」

「そりゃ、殴り合いの喧嘩もしたことの無いような人間相手ならな」


 おじさんが肩を竦める。


「大抵の人間は剣を向けられればビビるから剣を強く感じる。だが、魔物や動物からしてみれば牙や爪の代わりみたいなもんだ。剣を振り回したってビビッちゃくれない。何せヤツらはいつもヤツら同士、牙や爪を持った相手と戦ってるんだ」

「でも牙や爪なんかより剣の方が長いし……」

「それは錯覚だ。突くんでもなければ剣の間合いなんて拳で殴るのと大して変わらない。牙や爪と同じってことだ。そもそも素人が剣を振り回したところで鼠にだって当たるもんか。それどころか角の生えた兎になんて向かってこられた日には、剣も振れずに胸や腹を角でぶっ刺されてお陀仏になる」

「でも先に当てさえすれば!」

「当たらないよ。それどころかビビッて剣を振ることもできない。考えても見ろ。生きるか死ぬかで命を取りに真っ直ぐ突っ込んで来るヤツなんて、たとえ兎だろうとそら怖ろしいもんだ」


(え? そこまで怖ろしそうには思えないのだけど……。兎だよね!?)


 ルキアスは内心で反論した。声に出して反論しても返り討ちに遭うだけだと感じたからだ。


「納得できないって顔だな? だが悪いことは言わん。剣は止めとけ。できれば銃がいいが、野宿するくらいだからそんな金は持ってないだろう? だから弓矢を使え。鉄を弄れて、そっちのテントも自作だろ? なら弓くらい作れるさ」


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