100 第一歩
「リュミア姉ちゃん、ルキアスの様子は?」
ザネクだ。リュミアに尋ねてみたものの、答えを聞く前に自らルキアスが目を覚ましているのを見て、顔一杯で喜びを表現した。
「ルキアス、気が付いたんだな!」
「うん。ザネク、ありがとう」
「おう」
ここでザネクはもう一人の見舞客に目を向けた。そしてその特徴的な縦ロールに引っ掛かりを覚えて考えた後、ポンと手を叩いた。
「何だ、ルキアス。彼女ってアレだろ? 『車窓の君』。いつの間に仲良くなったんだ? ったく隅に置けないぜ」
「わっ! わーっ! わーっ!」
ルキアスは慌てるが、途端に目眩がしてベッドに倒れ込んだ。顔が真っ赤なのは熱のせいか、羞恥のせいか。
訳が判らないのは当の『車窓の君』である。
「『車窓の君』とはわたくしのことですの?」
「ああ。ルキアスがこの様子なら間違いない。ルキアスがベクロテまでの旅の途中で美少女に会ったって言ってたんだ。あんたがバスに乗ってた時に会っただろ?」
「わたくしがですか?」
ザネクは頷きを返した。
「旅を始めて直ぐだったって言ってたから、もう一ヶ月半も前になるんじゃないか?」
「はい……?」
エリリースは記憶を辿る。一ヶ月半くらい前には確かにバスに乗ったことがある。遠くへ用事で出掛けた際に乗ったのだ。するとベクロテへの帰路の途中で出会った少年を思い出した。記憶の中の少年は眼前のルキアスとそっくりだった。
「ま! まあっ! まあーわたくしったら!」
両手で頬を挟んで小さな叫びを上げる。
「あの時の彼がルキアスだったのですわね。てっきりあの町の方だとばかり思っていたものだから、いつぞやは失礼いたしましたわ」
エリリースはルキアスに頭を下げた。ルキアスに「久しぶりだね」と声を掛けられた時に以前会ったことを思い出すこともなく、てっきり軽薄なナンパだと思って邪険に扱ったのが落ち度だと考えたのだ。
「待って! 待って! 謝らないで! ぼくはむしろ忘れられてて良かったと思ったくらいなんだから」
もしもあの時エリリースに思い出されていたとしたら、ルキアスは舞い上がって体術の講習は勿論、銃作りにも身が入らなかったように思えるのだ。
「そうなんですの?」
「うん! そうなんだよ!」
ルキアスは力一杯肯定した。しかしそうこうする間にまた熱が上がってしまったようで、不意に意識を失った。
「ルキアス!?」
エリリースは慌てるが、ルキアスに苦しげな様子は見えない。
「眠ったみたい……ね。だけど一応お医者さんを呼びましょう……か」
診察の結果は少し安静が必要とのことで、ザネク、リュミアとエリリースは病室を辞した。
ルキアスより状態が深刻だったロマが目覚めたのはルキアスに遅れること二日後のこと。これで漸く再会を果たした二人はお互いの無事を喜び合った。
ロマはルキアスがどうやって鉄を曲げたかが不思議だったので尋ねた。そしてそれが生活魔法『捏ね』によるものだと知ると、目を丸くして驚いた。
幾つかの情報ももたらされた。
一つはダンジョンタワーの地下が水没する原因を作ったグロン達三人は奉仕活動に従事させられると言う話。魔物をダンジョンの外まで引く行為は恒常的でなければ多くが叱責だけで済まされる。そうでなければ逃げるしかなかった者達に「死ね」と言うようなものだからだ。しかし今回は大騒動となった結果、少し重い処分を下さなければならなかったらしい。
一つは訃報。見方を変えれば無料宿泊所でルキアスがロマと出会う切っ掛けを作った人物であるマグスが亡くなった。その親友ケビヌが使っていた無料宿泊所の区画で見付かったらしい。
この知らせを聞いたロマは「馬鹿野郎が」と嗚咽を漏らした。ルキアスはむしろそんなロマを見るのが辛かった。
そして入院から七日後、漸くルキアスは退院した。
ルキアスは退院から三日間、射撃練習に勤しんだ。弾丸を改良しつつ、照準器の増設も行い、自らのアクションも改善して射撃精度を高めた。
そしていよいよ本番だ。これで漸く探索者としての第一歩を踏み出すことになる。
物陰に潜みながら『望遠』でホーンラビットを探し、草陰に隠れつつ風下から抜き足差し足近付いて行く。銃の射程距離に入ったら蒸気タンクに栓棒を挿し、銃身に弾丸を籠める。蒸気タンクに『湧水』で水を入れ、『加熱』でその全てを蒸気に変える。『望遠』も使って照準を定め、引き金を引く。
ガッ、パンと栓棒が銃床に当たる音と弾丸の発射音とがして弾丸が発射される。
弾丸はホーンラビットへと真っ直ぐ飛んだ。




