表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/627

10 知らないおじさん

 ルキアスは二日目の野宿場所にしたこの地点が村と村の中間くらいだと見当を付けたが、次の村までの距離が正確には判らないために確証は得られなかった。正確である必要などないので拘泥はしない。

 夕食はクレソン入りのパンケーキ。生活魔法『篩』で篩った小麦粉を水で溶き、刻んだクレソンを入れて掻き交ぜる。熱したフライパンに油を引いて、溶いた小麦粉を投入する。ここで慌てない。表面が固まるまではじっと『加熱』だけを続ける。

 そして表面が固まるのを見計らって、ぽーんと引っ繰り返す。


「ほう、なかなか上手いもんだ」

「えっ」


 ルキアスは突然の声にビクッとした。振り向けば知らないおじさんだ。中背で細身でありながらどこか逞しい。


(全く気付かなかった。でも一体誰? どうして話し掛けて来た?)


 ルキアスはぐるぐると考えた。

 それを見るおじさんは苦笑する。


「そんなに警戒すんなよ。何も兄ちゃんもそのフライパンの中身も取って食おうなんて考えてないさ」

「い、いえ、誰かに話し掛けられるとは思わなかったからびっくりして……」

「あっはっはっ! そりゃそうだ。びっくりもするわな。隣いいか?」


 特に断る理由も無いルキアスは頷きを返した。するとおじさんが「よっこいしょ」とルキアスの横に座り、フライパンを『収納から』取り出してパンとソーセージを焼き始める。ルキアスとしては仰天だ。


(え……、どうして? ここに泊まるつもりなの?)


 しかし直ぐに自分の手許を思い出す。


(あっ、といけない。ぼくもパンケーキを焼いてる最中だった)


 既に焼き上がっているので塩を振ったら完成だ。塩を後から振るのは、この方が少ない塩で済むからである。

 ルキアスは熱い内に食べようと、パンケーキを返すのにも使ったフォークで一口大に切り分けて食べる。


(うん、クレソンが良い味を出してる)


 ルキアスがパンケーキに集中していると、横からにゅっと手が伸びて来た。


「ほれ、お裾分け」


 焼き色の付いたソーセージが一本、フライパンに載せられた。

 ルキアスは目を白黒させる。


(えっと……、貰って良いものなの?)


 考えても結論など出ない。


「あの、これ……」

「さっき驚かせた詫びみたいなもんさ」

「あ、ありがとうございます」

「いいってことよ」


 そう言うことなら早速戴こうと、ルキアスはソーセージを囓った。パリッと音がして口に肉汁が広がる。


「美味しい!」

「そりゃ良かった」


 だけど二口目を囓ろうとしたところで気付いた。


(おじさんはぼくが気に病まないようにあんな言い方でソーセージをくれたんだ)


 おじさんは良い人であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ