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家族ドラフト会議

作者: 村崎羯諦

『楢柴家、一巡目指名。麻生高校三年新島克明。ポジション、長男』


 楢柴家の一巡目指名が発表されると同時に、会場全体にどよめきが沸き起こった。それと同時に会場横に設置されたモニターに、別室で待機している新島克明の姿が映し出される。画面いっぱいに映し出された新島克明の表情は緊張で強ばりつつも、現在最も勢いがあると言われている楢柴家からの指名に、どこか満足げな表情を浮かべていた。


「はい、こちら中継席です。一巡目指名にて、楢柴家がまさかの新島克明氏を指名という展開となりました。まさに波乱の幕開けとなりましたが、別府さん。この指名どう見ますでしょうか?」


 テレビ中継用の実況席に座っていたアナウンサーが、隣に座っている解説員へと話題を振る。


「はい。まさにサプライズ指名ですね。前日までの予想だと、楢柴家は次女ポジションにお茶の水附属中学校の飯島舞香さんを一巡目指名するのではないかと言われていました。昨年まで楢柴家の次女だった楢柴穂乃果氏が未成年飲酒問題をきっかけに戦力外通告を受け、次女ポジションが欠員となったばかりでしたからね。今回の家族ドラフト会議でそこの穴を埋めにくるだろうというのが大方の予想でした」

「現役アイドルでもあった楢柴穂乃果氏の週刊誌報道は記憶に新しいですからね。しかし、そのような問題があったにもかかわらず、なぜ楢柴家は次女ポジションではなく長男ポジションの指名を行なったのでしょうか? 新島克明氏は昨年、権威ある国際ディベート大会にて優勝を果たした大注目の長男候補です。他家族から複数指名を受け、競合の可能性が高い新島氏を選ぶのは、どういう意図があってのことでしょう?」


 アナウンサーの質問に解説員が説明を続ける。


「これは当初の予想を外れたという点では確かにサプライズ指名なのですが、全く理解できないというわけではないんですね。実は、昨年の次女の未成年飲酒問題の影に隠れてですね、楢柴家の現長男である楢柴正雄氏の家族不和というのが囁かれているんです。正雄氏は国際数学オリンピックや国際科学コンテスト等で金賞を受賞するなど華々しい活躍をされている素晴らしい経歴の持ち主です。ですが、ここ最近は心身の不調や交友関係をめぐって、家長である楢柴宏伸氏との関係が悪化しているという噂があるんです。実際、先日の楢柴家の家族行事であるグアム旅行にも、長男の正雄氏だけが不参加でしたしね。そろそろ分家への降格、最悪の場合は戦力外通告が行われるんじゃないかと言われています」


 実況の間も他家族による一巡目指名が次々と発表されていく。最終的に新島克明氏は五家族からの同時指名を受け、交渉権をめぐる抽選のための準備作業が始まった。実況アナウンサーが会場の様子について簡単な実況をした後で、再び別府解説員の方へと顔を向けて先ほどの話を続ける。


「なるほど。いまだ家父長制の強い楢柴家としては、次女ポジションよりも跡取りである長男ポジションの方を重視していると言われていますね。近いうちに行われるかもしれない長男ポジションの交代を見越して、ポテンシャルの高い長男候補を獲得しておきたいということですか」

「ええ、スキャンダルではないので、長男ポジションを今すぐ交代しないといけないわけではないです。楢柴家としては、競合の結果交渉権を逃してもいいし、獲得できたら儲けものというスタンスなんでしょう。古くからの財閥の流れを汲む楢柴家らしいしたたかな戦術と言えるでしょうね」

「はい、それではここで楢柴家の家族構成について改めてフリップで説明いたします」


 アナウンサーがスタッフからフリップのような板を受け取り、それを中継カメラに向けて立てた。


「楢柴家の家長、まさに今会場にいらっしゃる方ですが、こちらが楢柴宏伸氏、46歳です。楢柴家の歴史では珍しく、長男ポジションからの繰上げではないんですね。長男候補として分家に所属していたところ、手がけた事業の大成功をきっかけに楢柴本家の家長へ大抜擢された苦労人でして、今の楢柴家再興の立役者として名高い人物です」

「彼は本当に人格者なんですよね。男前で、努力家で、気遣いだってできます。海外の超一流大学を卒業し、多言語を駆使する完璧なエリートでもあります。私も何度か対談をさせていただいたんですが、私が女性だったら一発で惚れちゃうような魅力的な方なんですね」


 解説員の別府が対談時の記憶を思い出しているのか、楽しげな表情を浮かべながら相槌を打つ。


「そして、楢柴宏伸氏の妻が、最年少で閣僚入りを果たした経済産業大臣の楢柴みすずさん、長女が同じく女優で、三年連続で日本アカデミー賞主演女優賞を受賞している楢柴杏里さんですね。二人とも三年前に秋山家とのトレード契約で楢柴家に入りました。そして、元次女がアイドルの楢柴詩織さんで、先ほどお伝えした通り、未成年喫煙問題をきっかけに楢柴家から戦力外通告を受け、現在はどこの家族にも属さない、フリーの次女として活動されています」

「楢柴家はもともと財界での影響力を持っていた家系なんです。そのため、家族構成員も大手企業の代表取締役社長やCEO、ベンチャー企業家であることが多かったんです。なのですが、現家長の楢柴宏伸氏がこの方針を転換し、政界や芸能界への影響力を強めようとして、お三人を獲得したんですね。次女の失敗は手痛かったでしょうが、みすず氏と杏里氏は飛ぶ鳥を落とす勢いですし、楢柴家への貢献度も高いと言えるでしょう」

「そして、最後の一人が、今回のドラフトの結果によって分家への降格や戦力外通告が行われるかもしれない長男の楢柴正雄氏です……。いやー、別府さん。まさに最強の家族と言っても過言ではないですね。トロフィーハズバンドにトロフィーワイフ、トロフィーチルドレン。今回の新島克明氏をドラフトで獲得し、長男ポジション入れ替えることがあったら、これこそもう家族の完成形ですね」

「トロフィー一家ですね」

「ははは、確かにそうですね。おっと、そうこうしているうちに、会場の準備が完了したようです」


 中継カメラが、会場の正面に置かれた抽選ボックスを映し出す。そして、司会に誘導され、新島克明氏を指名した五つの家族の代表が前へ出てくる。カメラが緊張した表情を浮かべた彼らを一人一人映し出し、それに合わせて実況アナウンサーが彼らの名前と彼らが代表を務める家族について簡単な説明を行っていく。


 会場が十分に静まり返った後で、順番に抽選ボックスから封筒を取り出すように指示が出された。一人、また一人と家族の各代表が抽選ボックスから封筒を取り出していく。封筒を取り出し終え、全員が元々のポジションへと戻った。それではご開封ください。その言葉と同時に、各人が手に持っていた封筒の中身を取り出し始める。会場全体が、実況席に座っていた二人が、別会場にいる新島克明氏が、関係者全てが息を飲んだ。そして、楢柴家の当主である楢柴宏伸氏が天高くガッツポーズをした瞬間、会場全体が熱狂と興奮に包まれるのであった。


 一巡目以降の指名に関しては特段の波乱はなく、つつがなく家族ドラフトが進められた。四巡目以降になると、会場の様子はワイプに抜かれるのみとなり、画面は楢柴家が交渉権を獲得した新島克明氏へのインタビューへと切り替わっていた。


「さあ、大注目の新島克明氏の交渉権を楢柴家が獲得したわけですが、別府さん。下世話な話、契約金はどうなるんでしょうか?」


 インタビュー画面から実況席へと画面が移り変わると同時に、アナウンサーが再び解説員へと話を振った。


「ここまで多くの家族によって指名される長男はなかなかいないですからね。三年契約で億単位のお金が提示されてもおかしくはないと思います」

「なるほど。確かに大金ではありますが、新島克明氏のポテンシャルの高さ、実績を考えると頷けますね」

「今の時代のように、能力や実績に見合った家族に所属することができて本当に良かったと心から思いますよ。私が十代の頃は今のような制度はなく、自分が生まれた家族を一生変えることもできず、また家族の方もどんなにふさわしくない家族を切り捨てることができない時代でしたからね」

「私が生まれる前の話ではありますが、知識としては知ってます。家族自由主義が認められたのは三十年以上前ですが、今の時代の価値観からすれば考えられませんからね。家庭環境が人間の成長に大きく影響を与え、家族のコネや影響力が社会的な成功力と密接に関わっているにもかかわらず、それを選ぶことができないなんてひどい話ですよ」

「彼が楢柴家に加入することで楢柴家のコネクションを最大限に利用でき、楢柴家も楢柴家で優秀な人材を構成員とすることでその影響力を伸ばすことができる。そんなウィンウィンの関係を両者で築き上げてもらいたいですね。これはあくまでスタートであり、ゴールではないのですから」

「そうですね。前途有望な新島克明氏の今後に期待という感じでしょうか」

「はい。まさしくその通りです。新島克明氏と楢柴家で、協力しながら成長していって欲しいですね」

「いやー、別府さん。改めて思いますが、家族って良いものですね」

「本当ですね。家族って素晴らしいです」


 ここでプロデューサーから番組終了のサインが出される。実況アナウンサーはちらりとそのサインを確認した後で、ちょっとした尺合わせを行い、それから締めのコメントを口にした。


「さて、お時間となりました。実況は私、田中聡、解説は別府昌孝さんでお送りしました。また来年もお会いできることを楽しみにしております。明日のこの時間は、幼馴染ドラフト会議をお送りします。注目の国際テニスプレーヤーの肥田雄大選手は一体誰の幼馴染になるのでしょうか? それではみなさん、ごきげんよう」

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