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旅行気分でやって来たオーサカ国。しかし、僕はお母様に受けた言葉に気を引き締めました。
「ルイ、言わずともわかりますね?しっかりと務めを果たすのですよ?」
務めというのはおそらくお姉様を監視する事でしょう。僕がついてお姉様の悪行を止めよという命令だと思われます。
ですか……
「ラン、次はあっち!あっちのたい焼き屋も行こう!」
相変わらず、お姉様の食欲は増すばかりです。新幹線で一時間半、オーサカ国にはあっという間に着きました。
さすが食い倒れの街。オーサカ国はとても賑やかで活気のある国でした。僕達は駅からオーサカの城へ向かう途中、お姉様の希望で少し寄り道をする事にしました。
それにしても、その食べ物の量……
「お姉様、花嫁衣装が入らなくなったらどうするんですか?」
「じゃ、着なきゃいーじゃん!」
「いやいや、お姉様、あなたはここに何しに来たかお忘れですか?」
どこの国に婚礼に衣装を着ない花嫁がいますか?それも一国の姫が、しかも体型のせいで!
お姉様は両手いっぱいに食べ物を持って、口いっぱいにタコ焼きをほおばっていました。そしてたこ焼きを僕に1つ差し出して来ました。
「ルー坊もいる?美味しいよ?」
「いえ、けっこうです」
「じゃあめんたいマヨ味の方?」
お姉様は本当に嫁入りの自覚が全く無いようです。僕は思わず深くため息をついてしまいました。
「お姉様、とにかく早く城へ行きましょう!」
こちらとしては無事にお姉様をオーサカ国の城に届けて肩の荷を下ろしたいのです。
たとえその体が花嫁衣装に入らなくとも!!
その身をデブ専変態オヤジに差し出さなければ私の仕事は終わらないのです。
やっとの思いでお姉様を誘導し、オーサカ国の城までやって来ました。誘導も骨が折れます。もう胃の中がパンパンです。
オーサカ国の城はお堀に囲まれていて、城壁にはマラソンランナーに後光の射すアートが飾られています。
「ほら、ルー坊!あれ!ドーント堀!正に、ドーンとドーント堀!」
「ダジャレが寒いですよ。いいから!早く中へ入りますよ?あ、お姉様、くれぐれも先方に粗相の無いように。何ならお姉様は極力黙っていてください」
門番さんに門を開けてもらい中へ入ると、僕達は城の奥へ奥へと通された。そして、とうとう王座の間へ。
僕達はオーサカ国の王の前でそつがなく挨拶をこなし、お土産を渡しました。我が王国マンナカ国の名産の林檎。とその林檎で作ったアップルパイです。
オーサカ国の王は優しい顔のお祖父さんで、立派な髭を蓄えていました。まるでサンタクロースみたいでした。
「長旅ご苦労さん。ようこそ~!オーサカ国へ~!」
オーサカ国の王がそう言うと、太鼓とタンバリンの音と共にクラッカーが一斉に鳴りました。さらに紙吹雪が舞い、とても派手な歓迎でした。そのうちに踊り子が現れ華麗なヒップホップダンスを披露していただきました。
「わぁ~!綺麗!すごーい!」
歓迎のダンスが終わった頃、オーサカ国の王が言いました。
「そんでな、ルナ姫、アンタのダンナになるわての孫がこれや」
そこで紹介されたのがお姉様の結婚相手、オーサカ国の王子様でした。
これが……お姉様の?ご相手!?こ、これが!?
「……ぼ、僕……」
これが!?
紹介された王子様は、王の後ろからおずおずと出て来て恥ずかしそうに挨拶をしました。
「……レオです」
!?……小学生?お姉様のご相手は赤い蝶ネクタイの良く似合う、大きめな眼鏡をかけた小学生でした。僕達の驚いた顔にオーサカ国の王が笑いだしました。
「わはははは、レオはこう見えて26なんやで~!」
「嘘ー!ルー坊より年上?全然見えない」
僕達はその姿に驚愕しました。
これは……!!これでは……完全に犯罪だ!!
「お姉様いけません!これは淫行で捕まります」
「いや、これホンマなんや!毒を盛られてな?副作用で体が小さくなったんや!」
それどっかで聞いた事あるやつ……いえ、そんな訳があるはずがない!!
「それなら問題無いね!ってあるわ!!大アリじゃい!!」
お姉様が驚嘆の声をあげると、王子様は怖がって王の後ろに隠れてしまいました。
「ひぇええええ~!怖いよ~!じぃじ~!」
「おお~よしよし。レオは大事な初孫なんや。大事にしたってな~!」
お姉様は素行の悪さ、王子は幼い体に弱い心。どうやら両国共に姫と王子をもて余していたようで、どこにも貰い手の無い二人。それならいっそお互いを結婚させてしまえという事に至ったようです。
すると、王の後ろから王子がボソッと一言投げ捨てられました。
「僕、こんな大きい人嫌だよ……」
お、大きい!?これはある意味『デブ』や『ブタ』などのありきたりな悪口より重い……
デブなどは相手を傷つけようと発する事が多い。そこはデブやブタという言葉を避けて『大きい』をチョイスするあたり確実に気を使っている……その気づかいが子供から発せられると余計重さを増すというか……
「私だって……ガキなんか……」
さすがのお姉様もこれにはダメージを受けたようで、珍しく落ち込んでいました。