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LUNA  作者: 路世 志真
2/124

2、


お母様の所へ連れて行かなければ私が殺されます。

本当の意味ではありません。しばかれるという意味です。


仕方なく僕はお姉様に上着を貸しました。それも交渉に交渉を重ね、何とか上着のみでその他を剥ぎ取られる事は免れたため、そのまま王宮へ連れ帰りました。


さすがのお姉様も濡れた体が冷えた様子で、意外と素直に帰宅する事に従ってくれました。


「オカンの話ってさ~」


お姉様は何故かお母様の事をオカンと呼ぶようになりました。お母さんの略称のようです。


「どうせアレでしょ?林檎の件」

「わかっているなら話は早いです。すぐに向かいましょう」

「ヤだよ!ヤダヤダヤダ~!!」


そんなに叱られるのが嫌なら叱られるような事をしなければいいのに……確かにそう思われると思いますが、お姉様もお父様を亡くして寂しいのかもしれません。そう思うとどこか可哀想な気すら覚えます。


いやでもあれからもう6年も経ちますから、お姉様にもそろそろ立ち直ってもらわないと困ります。まぁ、ぶっちゃけそう思わないとやってられないといいますか……甚だ迷惑と言いますか……


そんな事を思って王宮に戻ると、お姉様はすぐにお母様に見つかってしまいました。


「ル~ナ~!お前という子は!!またもやってくれましたね!?」


まぁ、お母様も最初はこのように叱るのですが……


お姉様は僕を盾にして逃げ回り、お母様はその後を追う。二人はいつものように僕を隔ててぐるぐる回り始めました。


「別にいいじゃん!ちゃんと農園に補償したんでしょ?」

「ええ!したわよ!してやったわよ!」

「じゃ、もうよくね?」

「はぁ?補償は誰が支払ったと思ってんだ?このバカ娘!!」


お母様、お言葉使いが……


お母様は平民出身で、キレると度々言葉が汚くなります。だから正直お姉様にはあまり火に油を注ぐような事は言って欲しくないのですが……


「子供のケツを拭くのが親の務めだろ?イチイチうるせーんだよ!」

「何ですって!?誰に物言ってんだ!あぁん?ふざけんな!!」


もはや反抗期の子供と親の会話になりつつあります。


この継母と子のバトルは国中で有名になり、その対立は周知のものとなっていました。


しかしお母様はお姉様にしか怒鳴りません。側近や侍女に怒鳴り散らす事は全く無いのです。


そうは言っても周りは気が気ではありません。その怒鳴り声と形相に恐怖を覚え、皆の背筋が伸びるのを感じます。


お姉様の素行の悪さに『こうなれば国外追放』という声もありました。しかし、お母様はお姉様がどんな悪さをしても、今まで決して国外へは出しませんでした。


まぁ、トラブルメーカーなので出すのは怖いという考えもあるとは思いますが……


この国から手放さないのも、やはり少なくともお母様にもお姉様への情があるからじゃないのかな?なんて僕はそう思っています。


「もういい!もう沢山!!あなたは嫁に出します!!」


前言撤回。そうではないみたいです。


「えぇええええええ~!!ヤダヤダヤダヤダ~!!」

「ヤダじゃありません!あなたももういくつになったと思っているんですか!?28ですよ!?」

「遊びたい盛りじゃーん!」


お姉様はいくつになっても遊びたい盛りだとは思われますが、この国では30歳前後をアラサーといい、28歳は十分お嫁に行ってもいい年頃です。ちなみに僕は25です。25でももう十分いい年頃です。実際にお見合いの話も沢山あります。


「いいですか?ルナ、あなたは隣国の……」

「隣国の……?え?東……?東の方じゃないよね?」


どうやらお姉様は東のトーキョ国へは行きたくないようです。


「西のオーサカ国へ嫁ぎなさい」


西のオーサカ国は田舎ですが、親交のある友好国でした。東のトーキョ国は我が王国より栄えていますが、我が王国の事を明らかに見下しています。お姉様がそんなトーキョ国へ行きたくないのはそのせいでしょう。


しかし、大臣達は口々にヒソヒソ話を始めた。


「オーサカ国?それでは戦争の抑止力にはなりませんな」

「今オーサカ国に送ったとて逆に国交の邪魔になるのでは?」

「女王は相当追い出したいと見える」


さすがのお母様もトーキョ国にあのお姉様を送り込む気は無いようで……


「オーサカ国へ行き親交を深め、両国のつながりをより一層強いものにしてきなさい」


そうお姉様に命じられました。


「ヤダ!どこも行きたくないもん!」


お姉様は相変わらず駄々をこねていました。


が、しかし……


「オーサカ国には『たこ焼き』なる食べ物がありますよ」というランの一言に、あっという間にお姉様はその気になりました。鼻歌なんか奏でながら、楽しそうに準備を始めていました。なんて現金なんでしょう……


「たこ焼き、お好み焼き、串カツ、ドーント堀~♪」


その浮かれっぷりに、僕はついつい小言のような事を言ってしまいます。


「お姉様、観光に行くのとはわけが違うんですよ?」


結婚となれば誰かしら相手がいるものです。それに、オーサカ国では我がマンナカ国とは違う文化や習慣があります。僕はお姉様が心配で心配で……


「わかってるって!あ、ルー坊、ルー坊も一緒に行こうよ!」

「だぁ~かぁ~らぁ~!嫁入りですよ!?どこの嫁入りに弟がついて行く事がありますか!」


完全に遠足気分じゃないですか!


「オカンは一緒に連れて行ってもいいって~」


え?僕は嫁入り道具ですか?


すると、侍女のランが落ち着いて僕に言いました。


「ルイ様には社会勉強としてオーサカ国に行くようにご通達があるはずです」


お姉様の侍女のランは常に冷静沈着で、僕に向ける目が冷たくてちょっと苦手です。


「ルイ様もお早めにご支度を」

「あ、ハイ……」


僕は自室に戻り旅の支度を始めた。僕を一緒に行かせるという事は……やはりお母様もお姉様が心配なのでしょう。



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