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8話 『英雄』ニールとネール

「──以上が、『凍血』の吸血鬼によって起こされた事件の一部始終だよ」


 北の街につながる関所で、マリアはヴァンパイアハンター協会の責任者と思われる人物にそう説明していた。白髪を生やした初老の男性である。マリアの説明をかいつまむと


 ・起きた事件はすべて『凍血』の吸血鬼によるもの。

 ・街にいた他系統の吸血鬼のおかげで、漁夫の利的に自分程度のハンターでも上位(エルダー)クラスを倒せたということ。(マリアはフリーダたちが『鉄血』だということも言っていない)

 ・他系統の吸血鬼による事件などは確認されていないこと。


 ということだ。フリーダたちがさほど害はない存在と暗に伝えて、マリアなりにキッドたちを守ろうと最善を尽くしているのである。


 責任者の男は報告書とマリアの説明を聞いて胸をなでおろしたように言う。


上位(エルダー)クラスの吸血鬼を君が無事に討伐できたのは大きな幸運だった。本来十数名のグループでもって討伐に当たるような存在なのだからね。それでも死傷者が多く出るほどなのに、君はずいぶんと神に愛されているようだ」

「私の美貌は神様も魅了しちゃうほどだからねー。局長も大好きなアタシが死んじゃったらやっぱ悲しい?」


 冗談めいてマリアは言った。


 責任者の男、管理局長はこめかみをピキピキとさせながら言う。


「……君が討伐した『凍血』の吸血鬼の死体は分析されたのち、血が技術班によって銃弾に加工されるだろう。加工がすんだら持っていきなさい。『凍血』が弱点の吸血鬼の討伐に役立つだろう」

「......あー、『凍血』ってなんの血の吸血鬼に有効なんだっけ」


 マリアが目線を斜め上に向けながら言った。局長はため息をついて説明する。


「『毒血』の吸血鬼に対して有効だ、やつらは毒の混じった血で攻撃してくるが、その毒は凍らせることで無力化させられると判明している。いっぱしのヴァンパイアハンターを名乗るなら血の相性関係はちゃんと把握しておきなさい」

「んーと、じゃあ、その『毒血』は何に強いの?」


 マリアの質問に局長はしばらく押し黙ったあと立ち上がり、本棚から古い書物を取り出してページをめくる。そして目当ての記述を見つけると言う。


「『毒血』は()()()()()()()()()()()()()と文献にある」


 局長の言葉にマリアは目を見開く。なぜなら『鉄血』とはあの夜に聞いた名前であるからだ。。


「だが『鉄血』と呼ばれる吸血鬼には今までどのハンターもであったことがない。情報がほとんどないんだ。専門家の中にはとうに絶滅したと考えているものもいる。ただ一つ分かっていることといえば……」


 局長は息を整えて言う。


「『鉄血』の真祖は──()()()()()()()。世界を滅ぼせる力を持っているといわれている」


 マリアは局長の言葉に静かに息をのんだ。


「──っていう伝説さ。何千年も昔の記述だ。本気にとらなくていい。心臓に毛の生えてる君もさすがに肝を冷やしたかな?」


 マリアはハハハと苦笑いを浮かべながら思う。


(私はとんでもない大物と出会ってしまったんだなぁ、あー、私は伝説の目撃者なんだぞ!って叫びたい)


「それで確認された他系統の吸血鬼をどのようにするかだが──」


 局長がそう言い始めたとき、急に扉が開かれ二人の男女が部屋に入ってきた。


「──無論、即刻討伐に向かうべきです」


 そう言った少女は肩までかかる白い髪を、後ろで一つにまとめている。肌は透き通るように白く、狂気を孕んだ赤い目を爛々と輝かせている。彼女こそ『忌血の英雄』の片割れ、『白銀の刃(シルバーブレイド)』、ネールである。


「吸血鬼は皆殺しにすべきです。ヤツらがいることでどれだけの人々が不幸になってきたか──」


 もう一人の男がネールの頭をポンとたたく。


「はい、ネールちゃんクールダウンクールダウン、大丈夫か?ちょうどあの美人のネーチャンが『凍血』の吸血鬼の死体を持ってきてるからそれ使ったらどうだ?」


 そういっておどけてネールを制止するのはもう一人の『忌血の英雄』、『赤銅の盾(ブロンズシールド)』、ニールである。ボサボサの髪の毛に無精ひげを生やしている。赤銅色の目は人の心の奥底を見透かしているようだ。冷徹なネールとくらべて温和な印象をあたえている。


「今までにその街では『凍血』以外の被害が確認されてないんでしょ?そういうのはさぁ、影鬼(エイキ)っていって、ハンターたちにバレないよう、人を殺さないようにしてこっそ~り生きてる連中なわけ、だから逆に刺激すると被害が広がることもあるの。だからほっといていいんだって、それにそこのネーチャンは影鬼がいたことで漁夫の利を得られたんだからさ」


 そういってなだめるニールにネールはくいかかる。


「そうやって見過ごして、もし街の人に犠牲がでたらどうするんですか!?いつ本性を現して人々を襲いはじめるか!『忌血』である私たちは人々を吸血鬼の被害に巻き込まないよう尽力すべきなのですよ!?」


「──たぶんもうその街に吸血鬼はいないよ」


 マリアが二人の会話に口をはさむ。


「影鬼は耳ざといヤツらが多いからね。おそらくアンタたちが来ると予想して離れるように逃げてるハズさ。探しに行くだけ時間の無駄ってもんだよ」


 局長もマリアの言葉に頷いて言う。


「影鬼よりもまず、実害がでている吸血鬼の討伐だ。ところで君たちは依頼をこなしてきてくれたんだろ?分析班に『雷血』の上位(エルダー)吸血鬼(ヴァンパイア)の死体が届いているよ。さすがは『英雄』の二人だ。早速報酬を」

「いつも通り、孤児院に届けておいてください」


 ネールが間髪を入れずに言った。 


「それより、次の依頼を。」

「おいおいネールちゃんまだ働くのお?」


 横でニールがうなだれながら言った。


「……少しは二人も休んだほうがいいと思うんだがなぁ」


 心配しながらも局長は依頼書をわたす。以前休ませようと依頼書を渡さないことがあったのだが、結局勝手に調査にいって勝手に討伐したので今は要望のままに渡すようにしている。


「無理はするなよ、君たちは人々の希望なのだから」


 書類を受け取った二人は部屋を出ていく。


「やりましょう、兄さん、人々を吸血鬼守るために」


 そういってネールは急ぎ足で去っていく。後ろを歩きながらニールは誰にも聞こえないように小さい声で言う。


「──へっ、笑わせるぜ、散々俺たち忌血を差別しておいて、役に立つとわかったら手のひら返しするんだからよ」


 そしてニールもネールの後を追っていった。


「うへぇ……英雄サマ……というかネールちゃんはおっかないねぇ。目線だけで吸血鬼殺せるんじゃないかな」


 マリアはネールの気勢に感嘆する。が、すぐに局長に向きなおると手をもみながらニコニコと笑みを浮かべて言う。


「……で、上位(エルダー)クラスの吸血鬼を倒した報酬はいかほどで?もとは調査依頼だったけど、たっぷりもちろん上乗せされるよね?」

「……なかなか報酬の話を切り出さないと思ったらあの二人がいたからか?」


 マリアはニカッっと笑って言う。


「ネールちゃんってそこんところ潔癖そうだからさぁ、あの二人報酬の大半を孤児院とかに寄付してるんだろ?私にはとてもできないね。」


 局長は呆れたようにうなだれる。


「君も若いハンターの中ではトップクラスに優秀な人材なんだから、もっと規範になるようなことをしてもらいたいものだ」

「私にも二つ名みたいなのつけてくれたらモチベーションが上がるんだけどねぇ。白い髪で白銀、赤い目で赤銅なら金髪の私は『黄金の弾丸(ゴールデンバレット)』みたいな、ね」

「君が彼らのように活躍すれば自然とつけられるさ」


 マリアは報酬をぶんどるように受け取るとスキップしながら部屋を出て言った。


「じゃーねー!お金が尽きたらまた依頼受けにくるよ!」


 局長は書類の中からなるべく報酬の高い案件を探しつつ独り言ちる。


「……宝石やドレスを買って、高級レストランで豪遊してくると考えると、依頼を受けにくるのは明後日といったところか」


 マリアに二つ名がつけられる日も(たぶん)近い。


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